鹿児島の和紅茶。渋さが少なくほんのり甘い、スッキリとした飲み心地

紅茶-落花生 製造物

最近よく「和紅茶」というのを耳にしますね。
和紅茶は、日本産の茶葉で作った紅茶のことで、「国内紅茶」「地紅茶」とも呼ばれています。
緑茶の一大産地である鹿児島でも、少しずつ紅茶生産が復活してきています。

そもそも紅茶と緑茶の違いとは

お茶-3種類
左から、ほうじ茶、緑茶、和紅茶

紅茶と緑茶は、同じツバキ科の常緑樹のチャノキ葉から作られます。
何が違うかというと、一つは製造工程です。
チャノキ葉は酸化酵素というものを持っており、摘み取ってから放っておくと発酵し赤く酸化していきます。
摘み取るとすぐに蒸したり炒ったりという火入れをし、その発酵を阻止して作られるのが「緑茶」完全に発酵させて作られるのが「紅茶」です。
だからといって、摘み取った葉をただ放っておくだけで、自然に美味しい紅茶ができるというわけではありません。
美味しい紅茶を作るには、紅茶に向く品種の開発や、栽培環境の整備、製造技術を進化させるなどの努力が必要です。

もう一つの違いがチャノキの違いです。
同じツバキ科の常緑樹のチャノキといっても、大きく2種類に分けられます。
シネンシス系(中国種)とアッサミカ系(インド種)です。
シネンシス系(中国種)は、耐寒性があり酸化酵素の働きが弱いというのが特徴。繊細な香りがあり緑茶用の茶葉に向いています。
日本で多く栽培されているのは、こちらのシネンシス系(中国種)です。
アッサミカ系(インド種)は寒さに弱く、インドやスリランカなどの熱帯地方の直射日光を浴びて育ちます。渋み成分のタンニン量が多く、紅茶やプーアール茶に向いています。

日本でも明治時代以降、紅茶の生産に取り組み始めましたが、寒冷地が多い日本でアッサミカ系の茶葉を育てるのはとても難しいものだったそうです。
それでも試行錯誤しながら、日本の気候でも美味しい紅茶葉に育つ品種作りの研究が続けられました。

日本での紅茶生産の歴史

日本が初めて紅茶を輸入したのは1887(明治20)年。
ヨーロッパ文化に憧れを持つ上流階級の人々の間では、ハイカラな飲み物としてもてはやされましたが、緑茶を飲み慣れた日本国内では、高級であったこともあり、あまり浸透しませんでした。

しかし、明治政府としては世界に向けて売り込むには緑茶より希望が持てることから、重要な輸出品の一つとして生産を奨励しました。
政府は、旧幕臣で静岡に移住し茶栽培に取り組んでいた多田元吉を、紅茶生産研究のために登用します。
彼は、インド方面のダージリン、アッサムなど、そして中国の広東、福建などで調査研究を行い、見本茶や茶の種子を持ち帰り、日本各地に試植し、紅茶の製造を指導しました。
それからの日本の紅茶産業は、紅茶は世界的に飲まれているお茶ということもあり、日露戦争や世界大恐慌などの時々の世界情勢の影響を受け、好調な時期・低迷する時期を繰り返しながらも、徐々に普及していきます。

1919(大正8)年に政府は国立茶業試験場を設立し、鹿児島の知覧や枕崎など全国各地で指定試験を行ない、より質の良い紅茶用のチャノキ育成に取り組んでいました。
それで知覧では品質の良い紅茶が作られていて、一度は皇室献上品になるほどの出来栄えだったそうです。
枕崎には、温暖な地域なので紅茶葉の育成に向いているのではないかと、1961(昭和36)年に日本で唯一の紅茶専門の研究機関「野菜茶業研究所」が設けられました。そこで第二次世界大戦後は国内でも紅茶消費が多くなるという見込みのもと、研究が盛んに行われていました。
しかし思ったほど消費が伸びず苦労していたところへ、1971(昭和46)年の輸入自由化により、海外から安価な紅茶が入ってくるようになり、それに押され壊滅的な打撃を受けます。
日本の紅茶生産は中止を余儀なくされ、国内消費向けの緑茶生産へと切り替えられていきました。

その枕崎の「野菜茶業研究所」で生まれたのが、国際的な品質水準の品種として育成され、1969(昭和44)年に登録された「べにひかり」です。
これはイギリスで金賞を獲得するなど非常に高い評価を受け、耐寒性がありサッパリとした味わいで、日本人の嗜好にも合うのではないかと期待されましたが、普及する前に生産できなくなり、しばらく「幻の紅茶」と呼ばれていました。

べにふうきの登場

茶畑-開聞岳

和紅茶の元祖として名前があがる品種に「べにほまれ」があります。
これは明治時代にインドなどから持ち帰った種子から選抜育成された「日本の紅茶品種」として初めて誕生した品種で、1953(昭和28)年に命名登録されました。
色が美しく重厚感のある味わいが特徴で、紅茶生産中止以前は、輸出用に盛んに栽培されていました。

この「べにほまれ」とヒマラヤ産の中国系雑種「枕Cd86」をかけ合わせて誕生したのが「べにふうき」。
「べにひかり」と同じ枕崎の「野菜茶業研究所」で1965(昭和40)年に誕生していましたが、生産者が激減し、1993(平成5)年に農林登録されるまで、鹿児島県の枕崎や知覧、静岡県などの一部で、細々と栽培されていたのだそうです。

その「べにふうき」ですが、1999(平成11)年、緑茶に加工すると「メチル化カテキン」を豊富に含むことが明らかになります。これは免疫力を高めたり抗アレルギー作用があるとされ、花粉症にも効果があるのではないかと一躍脚光を浴びました。
メチル化カテキンは「べにふうき」だけでなく「べにほまれ 」「べにふじ」にも含まれることが判明していますが、紅茶に加工すると酸化酵素の働きで消失してしまうのだそうです。

しかし、もともと紅茶用として育成された「べにふうき」。
鮮やかな紅色と、鼻に抜ける清々しい香り、苦味は少なくやさしい味わいが特徴で、和紅茶の生産に勇気をもたらしました。

復活する幻の銘柄

2002(平成14)年、かつて紅茶の生産に携わっていた人達が集まり「枕崎紅茶研究会」を発足。
翌年2003年には、幻の紅茶と呼ばれた「べにひかり」を用いて「枕崎紅茶」を復活させ初出荷します。
そして「べにふうき」は、2009(平成21)年から3回連続、ロンドンで開催された食品コンテスト「グレート・テイスト・アワード」で最高評価の三つ星金賞を受賞したのです。

その頃になると、健康志向の高まりから「糖質制限」を意識する人が増えてきていました。
2011(平成23)年に大手メーカーから、無糖紅茶のペットボトルが発売になると「スッキリ飲める」と話題になりました。
海外から輸入される紅茶葉のほとんどは、アッサミカ系。華やかな香りと共に、渋み成分のカテキン量が多いので、コクの深みや渋みを生かした飲み方として、砂糖やミルクを入れるのが一般的です。
ですが、日本は緑茶や麦茶を飲むのに慣れていたため、スッキリした味を好む人も多かったのです。
たしかに料理やスイーツと共に飲む場合など、砂糖を入れないストレートの方が、料理やスイーツの味の邪魔をしないので、しっくり合うこともありますね。

上記したように、和紅茶(国産紅茶)はアッサミカ系に緑茶にもなるシネンシス系を掛け合わせた品種、あるいは緑茶としても美味しい品種を紅茶加工して作られています。
製造方法や生産する人達のこだわりや工夫で製品により違いはありますが、全体的に、渋み成分のカテキン量が少なく甘み成分のテアニン量が多いので、ほんのり自然な甘みを感じます。
日本人は緑茶を飲み慣れているので「これなら、砂糖を入れないで飲む方がいいかも」と思う人も多いことでしょう。

輸出も視野に入れ、生産もますます拡大中!

紅茶-注ぐ

今のところは、国内紅茶流通量の1%弱の和紅茶ですが、これから増えていくと予想されます。

枕崎市の「枕崎紅茶」や知覧(南九州市)の「知覧紅茶」を中心に話してきましたが、鹿児島県内でもいろいろな地域で生産が拡大しています。
2022年、志布志市の鹿児島堀口製茶/和香園の「カクホリ 紅茶べにふうき」が、毎年フランスで開催されている日本茶コンテスト「Japanese Tea Selection Paris 2022」フリー部門で、最高賞のグランプリを受賞。2023年には、イギリスのUKアカデミーが主催するリーフ茶のコンテスト「THE LEAFIES 2023」和紅茶部門でも金賞(部門別最高賞)を受賞しました。
また、曽於市末吉町の末吉製茶工房が国際的な茶のコンテスト「THE LEAFIES 2022」で部門別最高賞を受賞、霧島市のヘンタ製茶が「Japanese Tea Selection Paris 2022」煎茶普通蒸し部門でグランプリを受賞するなど、国内だけでなく海外においても存在感を増しつつあるのだそうです。

国内での需要はこれから減少していくのが見えていますが、世界的な人口は増加傾向にあります。
ですので、これはお茶に限ったことではありませんが、国内での認知度を上げることはもちろんのこと、海外への輸出拡大を進めることが、将来を考えるととても重要になっているのだそうです。
試行錯誤しながら一生懸命に品質の良い茶葉を作っても、誰かに購入して飲んでもらわなくては意味がないわけで、需要と供給のバランスって難しいですね。

まだまだこれからの「和紅茶」なので、今のところ一般的なスーパーなどではあまり取り扱っていないようですが、お茶専門店や通販では購入できる所が増えてきています。
苦味・渋みが少なく、まろやかな優しい甘み。そして、ちょっと嬉しくなるような爽やかな香りを愉しむことができるでしょう。

ほんのり甘くて飲みやすかどん
やっぱい、緑茶とは違ごかなあ

じゃっどん
和菓子にも合うのよ~♡

紅茶の効能や歴史・生産工程などについては下記にまとめてあります。よかったら一緒にお読みください。

参考資料:
日本茶マガジン 知覧紅茶とは?
農研機構 べにふうきとは
1899 CHACHACHA Blog 和紅茶ってどんなお茶?紅茶との違いは
Kimikura 和紅茶とは?
南薩日乗「国産紅茶終焉の地」としての枕崎
PR TIMES 鹿児島堀口製茶の紅茶がパリの国際日本茶コンテストでグランプリ受賞

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