鹿児島で端午の節句によく食べられる、あくまきは、ちまきのルーツ?

あくまき-写真協力 食べ物こぼれ話
写真協力:鹿児島県南薩地域振興局

「あくまき」をご存知の方、おられるでしょうか?
「あくまき」は、鹿児島の郷土料理のひとつで、端午の節句の時期に食べられている、いわゆる「ちまき」です。
ですが、県外からいらして初めて「あくまき」に接したり、お土産で貰ったりした時に、一般的に想像する「ちまき」と違うので、どう食べたらいいか分からず、悩んだ経験がある人もおられるかもしれません。

その「あくまき」ですが、けっこう独特な風味と食感ですので、管理人は「長い歴史の中で、暖かい気候の鹿児島でも長期保存できるように、灰汁で煮るという独特の作り方になったのだろうなあ」と考えていましたが、いろいろ調べているうちに、それは勘違いだったことに気づきました。
勘違いしていたのは管理人だけかもしれませんが「他にもいらっしゃるかも?」ということで、今回はそのことを中心に紹介します。

あくまきの歴史

ちまき-昔

「ちまき」が中国から日本に伝わったのは奈良時代。
もともと中国から伝わったちまきは、蘆(イネ科)の葉でもち米を包んで、灰汁で煮た食べ物だったらしく、すでに灰汁で煮ています
それを日本ではチガヤの葉で巻いて作っていたことから、ちまき(茅巻き)と呼ばれるようになったそうです。

ですので、灰汁で煮て作る「あくまき」は、中国から伝来し日本で最初に作られたちまきの(大きさは違いますが)ほぼ原型ということになります。
ちなみに、長崎にも「長崎ちまき(唐あくちまき)」という鹿児島の「あくまき」と似ている食べ物がありますが、これも中国から作り方が伝わったものだそうです。

灰汁で煮ると、灰汁が持つ殺菌力や防腐作用でもち米の保存性が良くなり、灰汁に含まれるアルカリ性物質がもち米の繊維を柔らかくします。
加えて、もち米を巻く葉を、同じく中国から伝来した孟宗竹の皮に替えたことにより、殺菌力もますます強くなり、高温多湿で食料が腐敗しやすい鹿児島(薩摩)において、あくまきは長期保存できる重要な食べ物になりました。

豊臣秀吉の朝鮮出兵や関ヶ原の戦いの際に、島津義弘率いる島津軍が、“日持ちのする兵糧”として持参し腹を満たして戦ったということで、薩摩にとっては、なくてはならない保存食、そして参勤交代などの旅の携帯食となっていました。
西南戦争の際にも、西郷隆盛勢が保存食として持参しており、これを機に宮崎県や熊本県南部にも普及したといわれています。

そんなこともあり、鹿児島では、薩摩の偉人達も食した食べ物として、今でも人気があります。

ただ、灰汁で煮た「ちまき」は、えぐみがあったり匂いや風味で好き嫌いが分かれ、日本の各地域で改良され、全体的には時代とともに廃れていきました。

大まかに東西で分かれ、西は「甘いちまき」、東は「おこわ」のようなご飯物が主流です。
例えば西日本では、笹の葉に上新粉やもち粉に砂糖を混ぜたのを入れ、紐で縛り蒸した甘い団子のような和菓子になりました。
東日本では、もち米と肉・筍などを笹の葉で円錐状に包んで蒸したおこわ(中華ちまき)のようになっているものもあり、端午の節句では柏餅がよく食べられている印象ですね。

ちまき-西東-2

あくまきの作り方

昔から家族や親戚で作り、分けたり貰ったりしていました。管理人の祖母も作っていて、毎年貰っていましたね~。
囲炉裏や竈が少なくなったことで木灰が手に入りにくくなり、作り手や機会は減少はしていますが、現在でも、4月中旬から端午の節句の時期まで、鹿児島のスーパーなどの店で、あくまきを作る原料のもち米・灰汁・竹皮が売られていますね。
もちろん、出来上がったあくまきも売られています。

材料は、もち米灰汁竹皮のみです。

  1. 木灰に熱湯を入れ灰汁を作ります。しばらく置くと灰が沈むので、上澄みの灰汁だけを使います。
  2. もち米を洗って水をきり、灰汁に浸します。
  3. 竹の皮も柔らかくするために、水に浸しておきます。
  4. 翌日、1日浸けていたもち米を灰汁から上げ、水をきります(この灰汁は煮る時に使うので、捨てない)
  5. 竹の皮を広げ、もち米を入れ袋状に包み(横幅20cmぐらい)、竹皮やしゅろで作った紐で縛ります。
  6. 釜あるいは大きな鍋に入れ、5と水で薄めた灰汁を入れ、3時間以上煮ます。
  7. 竹皮を開けてみて、もち米が艶のあるべっこう色に変色していたら、出来上がり!

あくまきの切り方

あくまき-開いた

出来上がったあくまきは、柔らかくてもちっとベタついているので、包丁で切るのは難しいです。
切り分けるには縛りに使っていた紐を使います。少し湿らせた紐で、あくまきをぐるりと一周巻いて縛るように引くと、キレイに切ることができます。

食べ方

あくまきは、粘り気が少なく水分が多いため柔らかく、冷めても硬くなりにくいです。
食感は、粘りの強いわらび餅のようで、もっちりつぶつぶしていながら、口の中でさらりと溶ける感じ(個により多少違う)です。

味も、毎年作っていた祖母が「今年のは煮る時間が長過ぎた」とか「○○さんが作ったのはエグミが全然なくて美味い」とか言ってたように、もち米を浸ける時間・煮る時間、何の木の木灰で灰汁を作るかなどで、多少は風味や食感が違ってきます。
しかし、材料がもち米・灰汁だけなので、大きくは変わらず、ほぼ無味という感じです。

きな粉と砂糖(黒糖)をまぶしたり、黒蜜をかけて、和菓子のように食べるのが一般的ですが、一緒に食べるものによって味が変わります。
砂糖醤油や蜂蜜・あんこ・ココアパウダーをかけると違った甘さになり、大根おろしやワサビ醤油をかけたり味噌汁などの汁物に入れると、ご飯のおかずになります。
NHKの番組「グレーテルのかまど-あくまき特集-(2023年5月1日放送)」では天ぷらにしていましたが、それも美味しそうですね~。

あくまき(ちまき)を端午の節句に食べるようになったのは?

あくまき-鯉のぼり

これは色々な説があるようです。

ひとつは、中国から伝わった説。中国・楚国の時代に政治家で詩人であった屈原(くつげん)という人が陰謀により国を追われ、それを悲観して川に身投げして亡くなったのが5月5日。その死を悲しんだ国民が、命日のお供え物を悪い龍に盗られないように、供物を龍が苦手とする「れんじゅ」という葉で巻いたのが「ちまき」の原型で、これが災いを除けるという風習になり、端午の節句に出されるようになったとか。

ひとつは、旧暦の5月は暑さが始まる時期で、栄養の補給にちまきを食べて、無病息災を祈願するようになった説。肉や筍などを入れて作る中華ちまきは、こういう理由で食べられるようになったようです。

もうひとつは、竹のようにスクスクと、元気にたくましく子ども達が成長することを願って!ですね。

地域限定・期間限定品だったけれども

昔はどこの家でも囲炉裏や竈があり木灰も手に入りやすかったので、鹿児島ではあくまきを手作りする家庭も多かったですが、今はかなり減ってきてます。
ですが、やはり端午の節句には食べたい!という人は多く、製造された「あくまき」はかなり売れてますね。

鹿児島のソウルフードですが、上記で書いたように、じつは日本の「ちまき」のルーツかもしれない「あくまき」。
合成着色料・合成添加物を一切使用せず、素朴なスローフードとしても注目され始めているようで、アンテナショップや物産展・ネット通販でも、じわじわと人気が出てきているようです。

あたしは、きな粉と黒蜜をかけて

食もるのが好っじゃ!

参考資料:
農林水産省 あくまき 鹿児島県
どんどん鹿児島 かごしまの郷土料理 あくまき
なるほどバンク!生活グルメ あくまき
Macaroni「ちまき」の魅力を再発見!
wikipedia あくまき

タイトルとURLをコピーしました