鶏(3)-鹿児島・宮崎で鶏刺しや鶏のタタキが食べられる理由-

鶏刺し-郷土料理 名産品
©鹿児島市

昔から鶏肉をよく食べてきた鹿児島県には、鶏のいろいろな料理がありますね。
そのなかに「鶏刺し」「鶏のタタキ」という生で食べる料理があります。
肉の旨みが口いっぱいに広がり美味しいですよね。
とくに醤油とニンニクのすりおろしを付けて食べると「なんつあならん(言葉にならない)」となる美味しさで焼酎によく合います。

鹿児島県人にとって、鶏刺しはソウルフードともいえる存在

鶏肉専門店や飲食店で提供されるだけでなく、一般のスーパーなどでも気軽に買えるため、鹿児島県人はなんのためらいもなく普通に食べていますが、「鶏刺し」「鶏のタタキ」を食べる習慣があるのは、鹿児島県と宮崎県の一部だけのようです。

他の県の人にその話をすると「食中毒とか大丈夫なの?」とかなり驚かれます。
鶏や牛などの腸管内には、カンピロバクターなどの菌がいて、生で食べると食中毒になってしまう可能性が高いからです。
ですが、鹿児島県では普通に鶏刺し・鶏のタタキを食べているのに、全国の統計調査を見ても、食中毒患者の数は相当少ないのです。
それはなぜなのか・・・。

オイは毎晩しょちゅ(焼酎)を飲んで、

体をアルコール殺菌しちょっでなあ。

大丈夫なのよ!

うんにゃあ、そいは違ごど!!

鹿児島県独自の取り扱い基準

上記のダイコン君みたいなことを冗談で言う人や、本気でそう思っている人もいるみたいですが、それは大きな勘違いです。

1998年、厚生労働省から「生食用食肉に係る企画基準設定」が出され、国の鶏の生食に対する規制ができました。
簡単に言うと、食中毒になる危険性があるので「鶏肉は十分に加熱し食べること」「生食はしないこと」などです。
厚生労働省は「鶏肉は生では食べない」を前提にして規制しているのですが、昔から鶏刺し・鶏のタタキの食文化のある鹿児島県では困ってしまいます。
国から鶏肉の生食禁止令が出たので「鹿児島県もそれに従い、明日から鶏刺し・鶏のタタキは食べちゃダメ!」という御布令が出たとしたら、間違いなく鹿児島県内で暴動が起きますね〜。

そこで、鹿児島県は2000年に「独自の鶏肉生食取扱い基準(ガイドライン)を厳しく定めました。
まず最初の条件として、地鶏でも銘柄鶏でも若とり(ブロイラー)でも「新鮮で健康な鶏肉であること」というのがありますね。
そして「生食用中抜と体の腹腔内は、流水にて十分に洗浄し、必要に応じて殺菌を行った後、水切りを十分に行い、生食用中抜と体は、水切り後に表面を焼烙殺菌すること。」とか「鶏刺しを処理するまな板及び包丁等の器具は、専用のものを用いること。専用の処理台については、設置するのが望ましい。」また、「これらの器具は、清潔で衛生的な洗浄消毒の容易な不浸透性材質であること。器具の洗浄消毒は、83℃以上の温湯により行うこと。」などなど、とにかく細かく厳しい基準になっています。
出典:鹿児島県の生食用鳥肉の衛生基準
ちなみに、宮崎県の生食用の取り扱いについて 

これを、食肉処理業や食肉販売、及び飲食店営業の許可を受けているところは、必ず守らなくてはいけません。
民間で加工業者や飲食店向けの講習会や学科試験があり「鳥刺しマイスター」という資格制度もあるみたいです。
このような、生産者や食肉処理業・食肉販売業者、飲食店の方々の努力のおかげで、普通に鶏刺し・鶏のタタキが食べられるわけですね。

鶏刺し-スーパー

鶏刺し・鶏のタタキを美味しく食べるための注意

ただし、生食用としての処理や調理方法は、とても細かく面倒くさいし手間がかかります。
鹿児島県内ではカシワ専門店だけでなく、スーパーなどでも手軽に買える鶏刺し・鶏のタタキですが、軽く考えてはいけません。
普通に売っている鶏肉は、そこまで細かい処理はされていないので、加熱料理で、くれぐれも生では食べないように!!

カンピロバクターに感染しないために

カンピロバクターなどの菌は熱に弱いので、よく加熱すれば大丈夫なようですが、生焼けだと食中毒を発症してしまうおそれがあります。
鹿児島・宮崎県以外でも、鶏刺し・鶏のタタキなどの生の鶏肉を提供する店が増えてきているようですが、食べられる理由を尋ねた時に「ウチのは新鮮だから〜大丈夫!」という返答だったら、やめた方が無難でしょう。
新鮮だったら大丈夫な気がしますが、新鮮であればあるほどカンピロバクターなどの菌も元気なので、要注意です。

発症すると、下痢・腹痛・発熱・嘔吐・頭痛などが起こり、感染して数週間後に「ギラン・バレー症候群」を発症する危険性があり、辛い思いをすることになるので、お互い気をつけましょうね。
とくに子どもや高齢者の方々、抵抗力が弱い人は、鶏刺し用に処理されたものでも、できれば生食は避けた方がよいようです。

余談ですが、昔の人も鶏をさばく過程で、熱湯をかけたり表面を焼いたり(タタキ)、工夫をこらして食べていたようですが、やっぱり食中毒を発症する人、あるいはそれが原因で亡くなった人(データがないので確実なことはいえませんが)も、今よりかなり多かったでしょうねえ。
それでも「なんつあならん!」と、嬉しそうに頬張ってきたのでしょう。

冷凍技術が発達したおかげで、全国どこでも通販で購入できるのは良い時代ですが、これは鶏肉が新鮮だからだけでなく、特別な処理をした鶏肉だから食べられるのだ、ということは忘れないようにしましょう。
そして私達消費者も、決められた食べ方をしっかり守り、昔から郷土料理として食べてきた鶏刺し・鶏のタタキを美味しく堪能しましょうね~。

鳥刺し-店

参考資料:
鹿児島県の生食用鳥肉の衛生基準
鹿児島県 郷土料理 鶏刺し
ハサログ 鹿児島の県民食「鳥刺し」は安全なのか?

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