鹿児島では「だっきしょ」と呼ばれ親しまれている栄養価の高い落花生

名産品

子供の頃によくオヤツに食べていたお菓子(今もツマミに食べている)に「雀の卵」というのがあります。
長い方が15cmほどの卵の形の衣を着た醤油味のお菓子で、中にピーナッツが1個入っている、鹿児島市のお菓子屋さんが作っている「鹿児島ふるさとの味」です。

鹿児島では落花生のことを「だっきしょ」と呼び、昔から親しまれてきました。
落花生→らっくぁせい→らっくぁしょ→らっきしょ→だっきしょ ですね~。

落花生はユニークな成長をする植物

落花生はマメ亜科ラッカセイ属の一年草。
原産地は南米アンデス山麓とされており、新大陸の発見とともに世界に広まりました。
保存ができるので、大航海時代に重宝されたそうです。

ピーナッツとも呼ばれますが、これは殻の中の食用にされる種子部分のみを指し、植物全体を落花生と呼びます。
ピーナッツの名に「ナッツ」が付いていますが、ナッツ類ではなく豆類
暖かくて砂質でやわらかい土壌を好み、風に強く、痩せた土地でもよく育つ植物です。

ユニークといわれるのは、成長の過程で不思議な行動を取るからです。
5月中旬~6月上旬に土に撒かれた種から芽が出て、太陽の光をたっぷりと浴びながらスクスクと成長します。
種撒きから40~50日ぐらい経過し、背丈が25~50cm(品種により異なる)になると、花径1cmほどの黄色い花を咲かせます。
花が咲いて5日ほど経つと、しぼんだ花の子房と花托の間にある子房柄が下に向かって伸び、地中にもぐり込みます。そしてもぐり込んだ柄の先が膨らんで結実するのです(地下結実性)。
葉が黄色くなった頃、地中で膨らんだ実のサヤに網目が出てきたら収穫時期です。

茹で落花生は、掘り抜いて収穫したらすぐ付いている土や埃を洗浄し、茹でられます。
通常は、掘り抜いたものをひっくり返して1週間ほどそのまま干します(地干し)。
それをさらに畑に積みあげて(ボッチ)1ヶ月以上ゆっくりと太陽と風にさらさせ、天日干しして自然乾燥させます。
カラカラに乾燥させることで美味さが引き出されるそうです。

このように落花生は、花が咲くまで地上で育ち、それから土中にもぐり種実を育てるというユニークな植物。
花が下に落ちて豆が出来るので「落花生」と呼ばれているんですね~。

鹿児島での落花生栽培の始まり

日本に中国から伝来したのは江戸時代で、南京豆と呼ばれましたがあまり普及はしなかったそうです(花が落ちるのが忌み嫌われた?)。
ただし、琉球王国(沖縄)では、江戸時代前期には中国から伝来し栽培されていたとされています。
琉球王国の宮廷料理のメニューに「ジーマーミ(ピーナッツ)豆腐」があり、客人などに振る舞われていたそうです。
江戸時代、薩摩藩はこの琉球王国を通して貿易をしていました。それを考えると、たぶん薩摩にも落花生は伝来していたでしょうね。
琉球王国との行き来に使用した薩摩の港の近くでは、田んぼや畑の隅などで家族の食用として栽培されていたのではないでしょうか。米は年貢で取られますし。

落花生の日本国内での栽培は、1874(明治7)年に政府がアメリカより種子を導入して、埼玉・三重・福島などの各地に配布し、栽培を奨励したのが初まりとされています。
それとは別ルートとして、千葉県の落花生の歴史を調べてみると「1877(明治10)年に県令(知事)が鹿児島から種子を取り寄せて、県民に栽培を奨励した」となっているので、「以前から鹿児島では落花生が栽培されていた」ということになりますね。

鹿児島の落花生栽培

1879(明治12)年、大隅半島の垂水新城に住んでいた田中良八という人が、漁業の先進地である薩摩半島南端の山川に視察に行きました。山川は江戸時代から琉球との港のあった漁業町です。
そこの滞在した旅籠で、お茶請けとして琉球豆、要するに落花生が出されました。
宿屋の主人に「これは栽培中に台風にあっても害を受けず、煮ても炒っても格別な風味がある豆です。元気も出るし、また、これから採った油で揚げものをすると美味しいです」と説明を受けた良八はその豆に興味を持ち、10粒ほどを譲って貰い垂水に帰り植えてみたところ、秋に見事な豆が収穫できました。
農漁民の社会的そして経済的な地位の向上を目指していた良八は、この落花生を有望な換金作物として、村ぐるみで量産する計画を立て、鹿屋市花岡にも栽培を勧めたのだそうです。

鹿児島での本格的な落花生の栽培は、1930(昭和5)年頃から大隅半島(とくに鹿屋市)で始まったといわれています。
上記したように、落花生は暖かくて砂質でやわらかい土壌を好み、風に強く、痩せた土地でもよく育つ植物。
大隅半島の、よく台風が通り激しい風が吹き荒れるシラス台地でもスクスクと育ち、鹿屋市花岡は落花生の一大生産地になりました。

塩茹で落花生は芋焼酎のショケ(ツマミ)にもってこいで、料理では「だっきしょ (ピーナッツ)豆腐」や「五目煮」の具材の一つに利用され、黒糖をまぶした「黒糖落花生」などの豆菓子などが作られるようになりました。
管理人が子供の頃から今に至るまで食べ続けている豆菓子「雀の卵」や「南国珍珍豆」の開発も、生産拡大が背景にあるようです。

しかし落花生の生産量は、残念ながら1965(昭和40)年ぐらいをピークに、次第に減っていきます。

落花生の生産が減った理由は

鹿児島県だけが生産量が減ったのではなく、日本国内の落花生生産量全体が減ってしまいます。
1963(昭和38)年に144,000tの生産量で最高を記録してから次第に減少し、2020(令和2)年は13,200t。桁が一つ違いますね…。
現在は、国内で流通している落花生の90%ほどが輸入モノで、国内産は10%という状況です。

1965(昭和40)年以降に日本が高度成長期に入ったことで、農業でも所得の高さが求められるようになりました。それで、生産者の高齢化が進んだことや、作業の機械化が遅れたことなどの事情で、もっと効率の良い別の野菜への生産転換や農地の改廃などが起こり、落花生の作付面積が大幅に減ってしまったのが理由なのだそうです。

落花生について調べるまで、このことを深く考えたことのなかった管理人も、いろいろ落花生(ピーナッツ)商品の原材料名を見てみたら、ほとんどが輸入モノで、えっ!えっ!と驚きました。
国内で流通している落花生で国内産は10%。そしてその国内産の中でも、80%以上を千葉県、10%を茨城県が占め、鹿児島県産はほんの一部しかありません。

こんなに生産量が減っている落花生を「鹿児島の名産品」で紹介してもいいのだろうか? でも、小さい頃から食べ親しんできた「だっきしょ 」には、管理人・私なりに思い入れがあります。
…けっこう悩みました。

落花生を作り続けている生産者さんはおられる

しかし、もっと調べてみると、思い入れがあるのは私だけではなかったのです。

鹿屋の特産品を守りたい!」と、今も落花生栽培を続けている生産者さんはおられます。それどころか、耕作放棄地やサツマイモ畑だった土地を利用して、新たに落花生栽培を始めた会社もあります。
鹿屋市だけでなく、大隅町根占や霧島市・南さつま市・種子島・徳之島など、今も県内各地で栽培されています。
栽培されている品種は、昔から鹿屋市で育てられている「いそきち」、千葉県農業試験場で育成された「千葉半立」「ナカテユタカ」「郷の香」「おおまさり」、そして鹿児島の気候や土壌を考慮し育成され、鹿児島県推奨品種になった「ふくまさり」などがあります。

ためしに鹿児島物産店で購入した冷凍の「鹿児島県産の塩ゆで落花生」を食べてみたら、これがプリプリホクホクと美味しくて「やっぱり、だっきしょは紹介するだけの価値がある!」と自信が出てきました。

だっきしょは、鹿児島の名産品!

1963(昭和38)年と比べると、かなり減ってしまった国内産ですが、国内で流通している全体の落花生(ピーナッツ)の量は減っていませんね。
需要は減っていないということです。

鹿児島の気候や土壌に合った「ふくまさり」の育成は、農林水産省より委託された育種指定試験事業によるそうです。
また、千葉県のHPを見たら「落花生栽培を行うための一連の機械の開発が進み、現地での導入が始まりました」となっていました。
生産者の高齢化や機械化の遅れで、生産量が減少してしまっていた国内産の落花生ですが、まだ諦められてはいません。国内の生産を増やしていこうという振興は、少しずつですが進んでいるということです!

とりあえず私にできることは、食べて応援。
落花生(ピーナッツ)は、できるだけ国内産(とくに、ここでは鹿児島産)を購入して食べるようにしようと思います、超微力ですが。というか~国内産の落花生、香りが良くて美味しいです。
鹿児島産の落花生は、鹿児島県内ではそんなに探し回らなくても買えると思いますが、県外では一般的なスーパーではまずお目にかかれません。
でも、豆専門店には置いてあったり、今は通販で買うという手もありますね。

鹿児島では、節分の豆として落花生をまく

毎年2月3日の節分は「みんなが健康で幸せに過ごせますように」という思いをこめて、悪いものを追い出す伝統行事。
「鬼は外、福は内」と掛け声をかけながら豆まきをするのが恒例です。
全国的には炒った大豆が大半ですが、鹿児島では大豆の代わりに落花生をまく家庭も多いです。
まくのは殻付き落花生。まいた後は殻を割って中だけを食べるので、衛生的にも良いのです~。

このように、鹿児島の暮らしの中にも深く浸透している落花生(だっきしょ)。
「塩茹で落花生」や「だっきしょ豆腐」を、鹿児島の郷土料理としてメニューに入れている飲食店もあります。
やはり、落花生(だっきしょ)は“絶やしたくない”鹿児島の名産品のひとつですね!

鬼は外、福は内~

おいは鬼じゃなかど!
だっきしょを投げんでくれ〜〜

落花生は美味しいだけでなく、栄養価が高く、健康な身体を作るのにも役に立つ「豆」でもあります。落花生の栄養と効能については、下記に詳しくまとめてありますので、よかったら一緒にお読みください。

参考資料:
一般社団法人全国落花生協会
Felia!(南日本新聞)落花生の花、見たことある?
Minorasu 落花生の生産量ランキング
ぐるっと大隅 大隅史談会
ふるさと種子島 落花生栽培
落花生新品種「ふくまさり」の育成経過とその特性

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