日本で鶏の生卵が食べられる理由【前編】養鶏場→GPセンター→販売店

生卵-卵かけご飯 食べ物こぼれ話

理由をひと言で言うと「鶏卵を生で食べるのが好きな人が、日本には多い」からです。

卵は世界中で愛されている食材で、様々な料理やお菓子になって食べられていますが、ほとんどの国では鶏卵を生のママでは食べません。というか、食べられません。
卵、とくに殻の部分にサルモレラなどの菌がいて、それを生で食べると食中毒を起こしてしまう危険性がありますが、サルモネラ菌は加熱すると死滅するということで、そもそも諸外国では卵は加熱して食べることを前提に生産されています。
食中毒のリスクを負ってまで「生で卵を食べたい」という人も少ないのでしょうね。

世界で卵を生で食べる習慣があるのは、日本・韓国・台湾、そしてフランス・イタリア・チリぐらいでしょうか。

日本人は魚を刺身で食べるなど、生で食べることにあまり抵抗がないこともあり、昔から卵も生で食べるという食文化があるようです。
卵かけごはんが大好きで「毎日生卵を食べているよ」という人も多いでしょう。
では、何故ほとんどの国で生卵が食べられないのに、日本では普通に食べられるのか?。
それはやはり「鶏卵を生で食べるのが好きな人が、日本には多い」からなんですね~。

日本で売られている卵が特殊なわけではない

茶碗蒸し-卵焼き

鶏は紀元前100年頃には朝鮮半島から伝わりましたが、仏教の影響で長い間肉食が禁止されていて、鶏卵を食べるようになったのは江戸時代に入ってからです。
その頃は卵は大変貴重だったため、現在のようには簡単に食べられるものではありませんでした。かけ蕎麦一杯が十六文の時に、茹で卵は1個で二十文だったそうです。
しかし、当時出版された「万宝料理秘密箱」という本の中に「卵百珍(103種類のたまご料理が紹介されている)」が掲載されるほど、人気がありました。
生食も、小城鍋島藩の「御次日記」に客人への献立として「御丼、生卵」という記述があるそうで、生卵を使った丼物がおもてなし料理として、すでにあったようです。
明治、大正と進むにつれ、卵の生産量は増えていきましたが、まだまだ貴重で高価なものでした。

卵の生産量が格段に増加するのは、昭和30年代。アメリカから新品種の養鶏の新技術が導入されてからです。
以後、品種改良も重ねられましたが、もともとアメリカと同じ種の鶏からの卵であり、サルモネラなどの菌に強い鶏卵に改良されたわけではありません。
アメリカと同じ生産体制であれば、生で食べると食中毒のリスクは当然高くなります。
「卵は生で食べると食中毒になる危険があるから、生では食べないように!」とどんなに注意喚起しても、生で食べる人は必ずいますね。ですので、日本ではリスク回避の対策が必要になりました。

現在、日本で売られているほとんどの卵が「生で食べても大丈夫!」の状態になっているのは、養鶏場・加工施設(GPセンター)・流通・販売の段階で、サルモネラなどの食中毒菌を排除する、世界一ともいわれる「日本独自の徹底した衛生管理」のもとに生産されているからなのです。

養鶏場(採卵鶏農場)の努力

養鶏場-産卵

農林水産省から、平成17年に「鶏卵のサルモネラ総合対策指針」を公表し、ハンドブックを出しています。
このハンドブックは
1. 採卵鶏農場や採卵鶏舎内へのサルモネラなどの食有毒菌の侵入を防ぐ
2. 採卵鶏舎内での感染の拡大を防ぐ

を目的としていて、文章にするとたった2項目なのですが、敵が見えない菌なだけに、それを防ぐために実際行わなくてはいけないことは山ほどあります。

まず養鶏場の敷地内に「衛生管理区域」を作り、その中には野生動物(ネズミやスズメなど)・昆虫など全てが、換気扇・排水口・扉・窓・建物の隙間から絶対侵入できないように防ぎ、鶏舎内の器具・器材は汚れやホコリがつかないよう清掃・消毒し清潔を保ちます。
とくに産まれた卵が移動する集卵ベルトは、汚れやホコリが無いように清潔を保ち、卵が放置されないように、正常に作動するかを常に確認するようにしています。

衛生管理区域内には、人や車も関係者以外は入らないようにし、農場作業者も健康状態が悪い時は入ってはいけません。
衛生管理区域内で作業する人や車も、入口で消毒・洗浄し、専門の清潔な作業衣や作業靴に履き替えなくてはいけません。また、養鶏場内にいくつも鶏舎がある場合は、鶏舎ごとに清潔な専用靴に履き替えるようにして、農場内の衛生状態を保ち、病気の発生を防いでいます。
いくつも鶏舎がある養鶏場では、期間を決めて鶏達を移動させ鶏舎内を空っぽにして、徹底的に洗浄します。

鶏を導入する時は、導入鶏の孵化日、ワクチン接種歴、種鶏場でのサルモネラ検査の結果を事前に確認し、健康状態を調べます。

飼料も、購入先の工場でどのように製造され、安全に管理されたものか定期的に確認し、飼料タンクの蓋もカビや細菌が入らないように、その都度きちんと閉めることを徹底。そして毎日、鶏の健康状態をよく観察します。

他にも、獣医師と相談してサルモネラ不活性ワクチンの使用を検討します。抜き取り検査もあり、鶏舎内の垢や壁を拭き取った検体や鶏の糞便を採取し、飼育時に使用されることのある動物用医薬品(抗生物質等)について、食品衛生法で定められた基準に適合しているかなどの検査を、専門機関で実施しています。

産まれた卵は、多くの養鶏場で導入している集卵装置(集卵ベルト)で鶏舎から集卵所まで自動的に運ばれ、機械できちんと容器に並べられ、洗浄・消毒した清潔なトラックでGPセンターに運ばれます。その間、人の手が卵に触ることはありません。
ただし、手作業で集卵する養鶏場もありますし、手で作業しないといけない場合もあります。その時は清潔な手袋、もしくは使い捨て手袋を使うようになっています。

鶏卵-集荷

GPセンター(卵選別包装施設)の努力

GPセンターでは、卵の洗浄や割れていないかの確認、サイズごとの選別、包装などを行っています。

センターでは、オゾンエアシャワーなどを使い、衛生的で安全を第一に作業を行なっています。
大規模なセンターになると、それぞれの工程が自動化され、迅速で清潔な処理が可能になっており、産卵がセンターに入庫されてから包装されるまで、販売される卵に、人の手が一度も触ることなく作業が進む仕組みになっています。

入卵

センターに入庫された卵から何個かを無差別に抽出し、微生物検査や品質検査をします。

問題なければ卵ラインに進みますが、殻が割れないようにゴムの吸盤を使ってラインに乗せます。
この時、割れていたりヒビの入っている卵は取り除かれます。

洗卵

卵を転がしながら、洗浄消毒水(主に次亜塩素酸ナトリウム溶液)でキレイに洗い、乾燥させます。
溶液の濃度や水温は、機械でモニタリングされていて、何度も点検しています。水温も点検するのは、高いと殻が割れる可能性があり、冷たいと殻から中に水が入ることがあるからです。

検卵

洗浄・消毒・乾燥が終わると、次は検査です。

まず、自動汚卵検査装置で殻表面の汚れの有無を調べます。
次に自動破卵検査装置で、卵殻を軽く叩いて発せられた音からヒビ卵の有無を調べます。
ここで不合格となった卵は、加工用に回ります。
もうひとつ、血が混ざってないかを専用の機械で検査し、血卵は破棄されます。
管理人が子供の頃は、けっこう殻を割ったら血が付いていることがありましたが、ここ数年見たことがないのは、この段階で除かれているからだったんですね。

サイズ分類・包装

検卵で合格した卵は機械で大きさ別に振り分けられ、サイズ別に包装ラインに。
この時も傷がつかないように、ゴムの吸盤で吸引されて、容器にキレイに並べられ包装(パッケージ)されます。
容器に封をしたり、賞味期限や食品表示シールを貼り完成です。

出荷

包装された卵は、温度管理の出来るトラックに乗り、販売店に運ばれます。

生卵が食もれるのは

徹底した衛生管理のおかげやっど!

参考資料:
農林水産省 安全なたまごができるまで
株式会社落水正商店 GPセンター
ホクレン
Macaroni 生卵は海外じゃ食べない!?
卵のお話~生まれてから食卓に届くまで~ 759216.pdf

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