かごしま茶。温暖な気候を生かし、振興が遅れたのをむしろ強みに!

緑茶-ぢゃんぼ餅 製造物

鹿児島県は、温暖な気候を生かし早生から晩生種まで色々な品種を栽培できるので、摘採期間が長く、様々なニーズにあったお茶を生産しています。
2021年の荒茶生産量は26,500トン、茶栽培面積8,300ヘクタールで、生産量・栽培面積ともに全国第2位の茶産地ですが、2019年度には茶産出額が初めて静岡県を上回り全国1位!になるなど、ほとんど差がない状況になっています。

鹿児島の茶栽培の歴史

鹿児島の茶の栽培は800年ほど前からとされ、金峰町阿多白川(南さつま市)で平家の落人がひっそりと栽培していたのが始まりでは?という説などがあります。
江戸時代には、薩摩藩も奨励したこともあり藩内各地で栽培されるようになり、主な産地は今の阿久根市から吉松にかけての鹿児島県北部地域が中心で、田の畦や屋敷の生け垣で栽培されていましたが、そんなに盛んではなかったようです。
また、江戸時代後期の1836(天保7)年に、南九州市の頴娃(えい)町新牧地区で、茶の種子を播種し頴娃茶の栽培も始まりました。

明治時代になり、政府は外貨を稼ぐために、生糸とお茶(とくに紅茶)を輸出品として生産を押し進めました。
鹿児島でも、枕崎で日本で初めて紅茶作りを成功させ生産を続けていましたが、1971年の紅茶の輸入自由化を境に壊滅的な状態になってしまい、緑茶生産の方向に切り替えていきます。

そういうこともあり、積極的な緑茶業の振興は1970年頃からと、京都府や静岡県に比べると遅くなったようです。
しかしその後の緑茶(主に煎茶)の生産は、大幅な機械化の影響でめざましい勢いで進み、1970年の荒茶(摘みたての葉を蒸気で加熱し乾燥しただけで、まだ精製していない茶)の生産量は3,811トンでしたが、2021年にはドド~ンと、26,500トンになっています。
それは、茶生産地として有名な南九州市の知覧町・頴娃町・川辺町、そして枕崎市へと広がる地帯や、霧島市の溝辺地帯だけはでなく、大隅半島の志布志市・曽於市、種子島などと、鹿児島県内全域に茶園が増えていっているからです。
しかもその面積はまだまだ増え続けています。

かごしま茶の強み

知覧-茶畑
© K.P.V.B

その1. 南国の暖かい気候

その年で最も早く生育した茶葉で淹れたお茶を「新茶」と言います。
新茶の時期は、有名な「夏も近づく八十八や・・・」の歌詞のように、5月頃が一般的ですね。
ですが、鹿児島の新茶は暖かい気候を利用して4月上旬から始まります。
種子島の新茶はもっと早く、3月末頃から始まり「走り新茶」として喜ばれています。

その2. 栽培されている品種が多い

緑茶というとよく目にするものに「やぶきた」がありますね。やぶきたはチャノキの品種名。育てやすいので、全国で栽培されている品種の70%以上を占めています。
しかし鹿児島での栽培は30%ほどにとどまり、各生産地の環境に合わせて、多くの品種が育てられています。
昼夜の寒暖差が大きい地域では香りの高いお茶、日差しが降り注ぐ平地でははっきりとした味のお茶を主に育てています。
「ゆたかみどり」「さえみどり」「あさつゆ」「おくみどり」など、たくさんの品種がありますね。
品種が違うと、芽吹く時期も少しずつずれるので、新茶だけでもけっこう長く楽しめます。収穫時期がズレることで、労働力の分散ができるというメリットもあります。
とくに「さえみどり」は味・香り・色すべてが好評で、人気がグングン上がってきています。さえみどりは寒さに弱い品種なので、温暖な鹿児島県での栽培が大部分を占めています。

抹茶も需要が国内外で高まっているので、鹿児島県でも抹茶の原料となる「てん茶」の生産が拡大していて、2020年には800トンと全国1位になっています。また、紅茶用の茶葉の栽培も復活してきているようです。

その3. 平坦な地の茶園が多く、機械化が進めやすい

鹿児島県の茶園は、振興が遅れた分、機械化の将来が見えていたので、あらかじめ土地を平坦に整備した所が多いです。乗用型摘採機での摘みとり作業など機械化が進めやすくなっていて、管理作業を省略化でき、低コストでの生産が実現できています。
それにより、一番茶だけでなく二番・三番・四番・秋冬番茶まで長く生産でき、栽培面積が静岡の半分しかないのに、静岡と肩を並べられるほどの生産量を確保できるようになったのだそうです。
乗用型摘採機という大型機械化が進むと、作業率もアップし、労働者の負担も軽減されます。

緑茶の健康効果については後述しますが、一番茶はうま味成分のテアニンなどのアミノ酸類が多く、夏の日差しをたっぷり浴びた二番茶はカテキン量が増えています。
三番・四番、また秋冬番茶は、刺激が少なくスッキリとした爽やかな味ですが、下級のお茶とされてきました。
ですが近年、カテキンや血糖値を下げる効果があるとされるポリサッカライドも多く含まれていることが判明し、見直されてきています。
鹿児島県の三番茶以降の生産量は、全国の約40%を占めているそうで、ペットボトル飲料用の茶葉としても需要が増えています。

その4. 農業法人化が進んでいる

鹿児島県では、農業法人化が進んでいて50%以上になるそうです。
農業経営を法人化すると、融資を受けやすくなったり、人材確保がしやすくなるので、効率がよくなり、研究開発もしやすくなります。
また、的確な価格での取引きができたり、労働条件の改善につながったり、市場ニーズも把握しやすくなる、というメリットもあります。

その5. 若手後継者が多い!

上記のように、大型機械化や農業法人化で働きやすい仕組みになっていると、働いてみようかという若い人も増えており、新規就農者の約9割が40歳未満という状況になっているそうです。
若い人は体力があり、最先端のデジタル技術にも強い人が多いので、頼もしいですね。

その6. そして、なにより品質が良い!

全国茶品評会で「普通煎茶10kgの部」において、産地賞を連続受賞するなど、品質が全国トップクラスです。
お茶ができるまでの工程は、「かごしま茶navi」のサイトが分かりやすいので、紹介しておきます。
かごしま茶navi お茶ができるまで

茶葉の選別
©鹿児島市

主なかごしま茶の品種

かごしま茶は、栽培されている品種が多いのが特徴と上記しましたが、その中でも主な品種を紹介します。

ゆたかみどり

静岡県の茶業試験場で生育された品種で、収穫量は多いものの霜に弱いという特性がありました。そこで温暖な地である鹿児島では上手く育つのではないかと、試行錯誤を繰り返し誕生した品種です。
全国でも「やぶきた」に次いで2番目に栽培面積が多いですが、ほとんどが鹿児島県で栽培されています。「やぶきた」より5日ほど早く摘採できることで、鹿児島県の早世品種を代表しています。
摘採前に被覆し、深蒸しで製造することで、濃厚な旨みとコクのある味になります。

あさつゆ

京都の宇治在来種から選抜され、1953年に品種登録された品種。
全国の栽培面積は茶畑の1%ぐらいですが、温暖な気候に適していることから、鹿児島県の南九州市(知覧茶)だけで、その40%ほどが生産されています。
摘採前に被覆し深蒸しで製造することにより、渋みが少なく濃厚な水色と旨みが得られます。また、露地玉露とも言われています。

さえみどり

「やぶきた」と「あさつゆ」の交配でできた、やぶきたの濃厚な旨みと、あさつゆのふくよかな旨み・濃緑な色みを受け継いでおり、今やかごしま茶を代表する高品質の品種です。
早世品種で澄んだ水色が特徴。旨み成分のアミノ酸含量が多く、カテキン含量が少ないので甘く感じられます。

あさのか

「やぶきた」に中国種「平見ず1号」を交配して鹿児島県で育成された品種で、うま味成分のアミノ酸と渋味成分のカテキンが共に多く、甘味、渋味ともに強い個性的な品種です。

おくみどり

玉露や抹茶にも使われる優良品種。
被覆栽培に適していて、きれいな色合いと豊潤な香りが特徴です。深蒸しすることでマイルドな口当たりと上品なうま味が楽しめます。

べにふうき

べにふうきは、紅茶の原料として改良された品種。
インドなどで栽培されるアッサム種より優しい味わいですが、緑茶としては渋味や苦味が強いです。
緑茶加工をすると、免疫力を高めてくれる「メチル化カテキン」という成分が豊富になるため、花粉症などの鼻炎アレルギーに効果があるのではないかと注目されています。
ただし、紅茶加工するとメチル化カテキン成分は無くなってしまうので、この効果に期待して飲む場合は緑茶で。渋みや苦味が強いことに抵抗がある人は、パウダーになっているものは少し和らぐので、そちらで飲むのがオススメだそうです。

緑茶に期待できる栄養効果

カロリーは煎茶の茶葉100gあたり331kcalですが、そこから湯などを注いで抽出したお茶には、ほとんどカロリーはありません。
カロリーはありませんが、健康維持にも役立つ成分をいろいろ含んでいます。

カテキン

ポリフェノールの一種で、タンニンとも呼ばれている緑茶の渋味・苦味成分。
体内の細胞を酸化させ老化や病気の原因となる活性酸素を除去する抗酸化作用があり、生活習慣病予防やアンチエイジングに働きます。

カフェイン

緑茶には苦味成分のカフェインも含まれています。
眠気を抑制し集中力をアップさせてくれる覚醒作用や、体内に溜まった老廃物の排出を促し、むくみ解消に働く利尿作用があります。

テアニン

アミノ酸の一種で、緑茶のうま味や甘味を構成する成分。
脳の神経細胞の保護や筋肉の緊張緩和、血管を拡張し血行を良くするといったリラックス作用があります。

ビタミンC・β-カロテン

ビタミンCは皮膚や粘膜の健康維持に必要なビタミンで、美肌作りに欠かせません。
β-カロテンにも、皮膚や粘膜の健康維持や視力を維持する働きがあります。

緑茶の種類や効能については、下記のサイトにまとめてあります。

かごしま茶のブランド化について

70年代から本格的に緑茶の生産を始めた鹿児島のお茶も、その頃からそれなりに美味しかったのですが、なにしろ知名度が低く「鹿児島産」では売れませんでした。
ですので集散地である静岡県に一旦卸し、そこから出荷されていました。

お茶に限らず、生産者やその関係者は「できれば自分で精魂込めて作ったものは自分の名前で売りたい。せめて自分の土地の名前で売りたい」と考えるでしょう。
とても悔しかったと思います。

どんなに栽培農家や製茶工場の人達が研究・努力して美味しいお茶を作っても、知られていなければ売り上げは伸びません。地域ブランドとしての認知度を上げる販売戦略が重要になりました。

その一つの戦略が、南九州市の「知覧茶」への名称統一です。
2007年に、知覧町・頴娃町・川辺町の3つが合併して南九州市が誕生しました。それまで、知覧茶・頴娃茶・川辺茶としてそれぞれ販売されていましたが、その中でも知名度が高かった「知覧茶」で2017年から販売するよう統一がなされました。
これにより、南九州市は市町村別茶生産量が日本一になりました。

もう一つ「かごしま茶」としての統一です。
1964年に発足した鹿児島県緑茶生産協会が、後に鹿児島県紅茶生産協会と合併して、1971年に鹿児島県茶生産協会が発足し、1972年に社団法人として認可されました。
その鹿児島県茶生産協会による事業の一環として、消費者に安全、安心、信頼されるため、鹿児島県の茶業関係者全体で取り組む茶づくりの運動の「クリーンなかごしま茶づくり運動」が始まった1993年から「かごしま茶」というブランド名が用いられるようになりました。
そして、1997年、八十八夜にちなみ、輝きを8本の光にアレンジした朝日、桜島、茶畑、錦江湾に映る影をイメージしたシンボルマークが、かごしま茶を広くアピールする目的で商標登録されました。

かごしま茶-マーク

美味しいお茶を作るのはもちろんですが「とにかく知名度を上げなくてははいけない!」というのが、この「かごしま茶」シンボルマークに込められた、鹿児島県のお茶に関係している人達の願いですね。
「かごしま茶」シンボルマークは、(公社)鹿児島県茶業会議所が定めた規格基準(かごしま標章茶規格基準)に合格した、安心・安全に配慮した品質の良いものだけに貼付けすることが許可されています。
もしお店などで「かごしま茶」のシールのあるお茶のパッケージを見かけたら、安心してご購入ください。
そして、食事やおやつのお供として、お茶の時間をゆっくり楽しんでくださいね。

まぁ、茶いっぺ飲んで

ゆっくいしやんせ

ちなみに、チャノキはツバキ科ツバキ属の常緑樹なので、10~12月頃にこんな綺麗な花も咲きます。

チャノキ-花

参考資料:
(公社)鹿児島県茶業会議所
(一社)鹿児島県茶生産協会
鹿児島県茶商業協同組合
日本茶インストラクター協会 鹿児島県支部
日本茶マガジン
お茶の下堂園 ゆたかみどり

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