将来も気軽に食べられるように! 重要な鍵を握る鹿児島のマグロ

マグロ丼-奄美大島 水産物

日本でマグロは、好きな魚として1番か2番に名前が出てくるそうです。
飲食店などで刺身や握りの盛り合わせを頼むと、その中にほとんどマグロがありますねぇ。
そのくらい昔から日本人には馴染みが深い魚ですが、一番肝心な日本近海を回遊している太平洋クロマグロ(本マグロ)の数が、一昔と比べ減ってしまっています。
マグロは種類は違っても世界中の海に生息している魚ですので、いろいろな国から輸入もされていますが、世界でも「和食ブーム」などが起こり需要が高まっていることから、将来的に品薄になるのではないかということが懸念されています。

日本近海の資源復活への対策がなされているのに加え、養殖が増えてきているのは、そういった理由からですね。

資源保護のため、クロマグロの漁獲量には制限がある!

太平洋クロマグロやメバチマグロなどは黒潮などに乗り日本沿岸も回遊している魚なので、鹿児島近海でも獲れます。
しかし資源保護のために、都道府県あるいは時期により、それぞれの漁獲量が決められていて、どんなにマグロの大群を見つけても、その決められた量以上の漁獲はできません。
そして鹿児島県に定められている漁獲量は、そんなに多くはありません。

ではなぜ食用マグロを確保するために、鹿児島県が重要な鍵を握っているのかというと日本有数の遠洋マグロ漁船が所属している漁協があるということとマグロの養殖場が多いからです。

マグロ-にぎり

日本有数の遠洋マグロ漁船を誇る、いちき串木野市

いちき串木野市は、鹿児島県薩摩半島の東シナ海を望む西側にあり、昔から漁村として栄えてきました。
明治時代にバショウカジキ漁の技法としてはえ縄漁が始まりました。
はえ縄漁とは、長いロープに数千本の枝縄をつなげ、魚を1匹ずつ吊り上げる、魚の体を傷つけない漁法です。
1968(昭和43)年に、獲った魚を-60℃で冷凍できる漁船が開発され、太平洋・インド洋・大西洋まで出向き、クロマグロ・ミナミマグロ、さらにメバチマグロ・キハダマグロ・ビンナガマグロなどを漁獲するようになりました。

20隻ほどのはえ縄漁船が在籍し、主にミナミマグロ漁を行っていて、それに物資を運ぶ運搬船が串木野外港・串木野新港からも出港しています。

ミナミマグロの漁場は南アフリカ・ケープタウン沖やオーストラリア・タスマニア沖の水温10℃ほどの極寒の荒れた厳しい海域で、そこに生息しているミナミマグロは、脂が良質なうえ流通量も少なく「赤いダイヤ」と呼ばれるほど大変貴重なマグロです。
漁は長さ150㎞のはえ縄に3,000から3,500の針を付け、6時間ほどかけて仕掛けます。漁獲するとすぐ内臓などを取り除き-60℃で急速冷凍し、長い航海の間でも鮮度を保てるようになっています。

天然マグロ、とくにクロマグロ・ミナミマグロ・メバチマグロは、乱獲や海洋環境の変化などで資源が減少したため、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定されていて、海外でも漁獲量が制限されています。
その甲斐あって最近では資源状態が改善されてきてはいますが、危機的状況には変わりはないので、漁獲したクロマグロ、ミナミマグロは一匹ずつ体長と重さを計測して、水産庁に報告しているのだそうです。

焼津港-漁船
マグロ漁船も停泊する、静岡県・焼津港

現在(コストを抑えるためだと思いますが)水揚げの大半が、大消費地の首都圏に近く冷凍設備が充実している静岡県の焼津港・清水港になっていますが、串木野外港・串木野新港でも行われることもあります。
これは、選び抜かれた海域で漁獲した美味しいマグロを地元の人達にも食べて欲しいということで、鹿児島県をはじめ九州各地の飲食店に提供されているのだそうです。

「マグロの町・いちき串木野市」を広く認知してもらうためのPR活動として、10月10日(まぐろの日)と年末に、冷凍マグロを生産者価格で直売するイベントなども行っています。
また、遠洋マグロ漁船が漁獲したマグロを使った料理が食べられる「海鮮まぐろ家」「薩摩串木野まぐろの館」や、まぐろラーメンを提供している店もあり人気があります。

まぐろラーメン
まぐろラーメン(いちき串木野市)© K.P.V.B

鹿児島県のマグロの養殖

黒潮が流れ水温が暖かく、マグロの幼魚であるヨコワもよく獲れるということで、鹿児島県ではクロマグロの養殖も盛んです。
潮流は強すぎず、常に新鮮な海水が供給されるので酸素の量も豊富ということで、養殖にも適しているんですね。
現在は長崎県に次ぐ生産量を誇り、奄美大島・甑島・南さつま市・錦江湾などに養殖場があります。

クロマグロは体は大きいですが、とても繊細な魚です。
泳ぎ続けないと呼吸が止まるだけでなく、音や光などのわずかな刺激でも暴れて、網などにぶつかり死んでしまうほど神経質。餌も食べ残しがあって水が汚れると体調が悪くなるなど、養殖は難しいとされてきました。
しかし、広い養殖場の確保と様々な工夫を行うことで、それを可能にしました。
世界でもマグロの畜養(痩せたマグロを漁獲し生簀で餌を与えて育てる)はありますが、養殖を行っているのは日本だけのようです。そのくらい、高度な技術が必要だ!ということですね。
天然マグロの資源確保のためにも、養殖は大事な使命を持っているのです。

丸木崎展望所-養殖場-3
マグロの養殖場(南さつま市・丸木崎展望所から)

種苗・養殖

日本近海で採捕された、あるいは専用の種苗供給基地から調達したクロマグロの幼魚(ヨコワ)を、海の養殖用大型生簀に移します。
環境の変化に弱いデリケートな魚なので、生簀にぶつかっただけでも負傷あるいは死ぬことがあるので、注意して見守ります。

餌は主な生餌として、アジ・サバ・イカ・イワシなどを与えますが、食べ残しがあると海の環境が汚れ、マグロの体調が悪くなったりするので、それに気をつけなければいけません。加えて養殖場ごとに考えられた独自の配合飼料を与えています。
成長の仕方や脂肪の付き方など、品質に違いが出てくるので餌の種類はとても大事です。

そうやって50kg以上に成長するまで、2~3年育てます。

丸木崎展望所-養殖場-2
養殖場(拡大)

養殖場のメンテナンス

養殖場の網は海藻などが付き、目詰まりします。目詰まりすると海水の流れが滞り酸素供給が難しくなるので、定期的に洗浄しなくてはいけません。クロマグロの生簀は大型なため作業も大変です。

水揚げ(陸揚げ)・出荷

2~3年経ち70kgほどの成魚に育つと、いよいよ水揚げです。
マグロもカツオと同じで、興奮すると体温が急上昇し身焼けをおこし、質が劣化し商品価値が下がってしまいます。
ストレスを与えず、いかに素早く水揚げするかという高度な技術と経験が必要で、大事な工程です。

1尾ずつ素早くそして丁寧に水揚げされると、すぐ締め作業に入ります。
内臓などを除去し、冷却水槽に移して24時間冷却し芯温を0℃まで下げます。
仕上げのクリーニング・トリミングを施し梱包して出荷します。

トレーサビリティ(履歴管理)の実施

クロマグロの養殖にとっても、トレーサビリティは重要です。
生簀内ではマグロの健康状態や漁場の水温・酸素濃度・プランクトン量などの育成履歴をデータベース化しています。水揚げしてからは1尾ごとに番号を振り個別管理します。
これで生産から出荷段階まで追跡が可能になります。これは品質向上にも役立ちます。

完全養殖に向けて

マグロ-泳ぐ

大型(成魚)クロマグロの漁獲量に制限があるように、小型(幼魚)にも漁獲量に制限が設けられています。
この制限のおかげもありマグロの生体数は回復傾向にあるようですが、どちらかというと小型(幼魚)の漁獲の方が問題としては大きいそうです。

日本近海での漁獲量が激減した理由の一つに「成魚・幼魚かまわず漁獲していた」ということがあります。
日本近海を水産資源の持続可能な漁場に戻すためには、小型(幼魚)の漁獲量制限も大事なんですね。
しかし幼魚獲りに制限があると、養殖するにしても育てる幼魚が少ないということになります。

そこで、それこそ20年以上前から「クロマグロの完全養殖」については各所で研究が進められていて、すでに実現している所もあります。
完全養殖は、育てたマグロの成魚から採卵し、それを孵化させて2代目3代目と子孫を生み出す循環型の養殖。
稚魚を漁獲しなくても養殖ができるので、海の資源保護になります。

まだまだ課題は山積みですが、その一つが餌の問題。
クロマグロは体が大きく大食漢なうえに好き嫌いが激しく運動量も多い魚。それを3年ほど育てるわけなので、餌代だけでもバカになりません。しかも餌の種類により健康状態や脂肪の付き方など品質が変わります。
せっかく苦労して育ててもコストがかかって値段が高くて売れないという状態では、採算が取れないということになってしまいます。
品質の良いマグロを低コストで育てるために、良い餌の開発も重要課題です。

日本近海を資源豊かな海に戻しつつ将来も気軽にマグロが食べられるように、さらには年々高まっている世界の魚食ニーズにも応えられるように、様々な問題を一つずつクリアしながら、一層の生産向上のために今日も研究・努力が続けられています。

マグロ-定食

マグロどんは
体は大きいけど、繊細なんだなぁ
オイと同じじゃ!

だねぇ

マグロの特徴や栄養と効能は、下記にまとめてあります。よかったら一緒にお読みください。

参考資料:
特定水産資源の採捕の停止 鹿児島県
いちき串木野市 まぐろ
海鮮まぐろ家
薩摩串木野まぐろの館
株式会社 拓洋
西南水産 自然のあしあと。
MARUHA NYCHIRO クロマグロ完全養殖プロジェクト
クロマグロの完全養殖/近畿大学

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