鹿児島ではウンベと呼ばれる郁子(むべ)は無病長寿の霊果?

郁子-収穫した実 食べ物こぼれ話

秋(11月頃)になると、鹿児島ではウンベと呼ばれる郁子(むべ)という果実が、赤紫色に実っているのを見かけることがあります。

管理人が鹿児島に住んでいた子供の頃、父が仕事か何かで山歩きしていた際に見つけて、自分でもぎったか、あるいは人から頂いたかしたウンベを、土産に持って帰ってきたことが何度かありました。
実の中のゼリー状の果肉は優しい甘みで美味しかったのですが、果肉にくっついている沢山の種を舌でしごいて口の外に出すのが、とにかく面倒くさかった記憶があります。

先日SNSの友人がそのウンベの写真をアップしていたので、そのことを思い出し、ちょっと調べてみようという気になりました。
そうしたら、びっくり仰天するような話が出てきたので、それを記事にしようと思います。
併せて「郁子」と「アケビ」の違いについても紹介します。

郁子(むべ)とは

郁子-若い実-熟した実

郁子は、アケビ科ムベ属の常緑つる性の木植物。
暖かい気候を好み、日本にはいつ頃からかははっきりしませんが、関東地方から南部に自生しています。

現在ではほとんど市場に流通していませんが、栽培している農家はあり、近くの道の駅などや通販で販売されたりしています。
丈夫な木で近年の温暖化もあり、関東以北でも植えてみるとスクスクと育つこともあるようで、家庭菜園や日よけ棚として育てている人もいるようです。
常緑性なので別名「トキワアケビ」とも呼ばれ、鹿児島県ではウンベ、長崎県ではグベ、島根県ではフユビ、他にもウベ、イノチナガ、コッコなどの方言名があります。

花期は4~5月、10~11月に赤紫色の実が熟し、主に実の中の果肉部分を食用にします。
残った実の皮部分や茎・葉部分も、味噌炒めなどの加熱料理で食べることができます。
春は柔らかい新芽をお浸しや天ぷらにして、春の息吹を感じる山菜として愉しむこともできるそうです。

種子は硬いので除かれますが、毒は無いそうなので食べても問題ありません。
ただし食べ過ぎると消化不良を起こす可能性があるので、食べない方が無難でしょう…。

郁子は「無病長寿の霊果」で「縁起の良い木」

砂糖がない昔は、甘い果肉は甘味料として、そして食べると「なぜか元気が出てくるスタミナ果実」ということで、無病長寿の霊果として重宝されていたようです。
民間療法として、強心・通経・抗炎症作用、腎臓炎や膀胱炎・浮腫などの薬としての効能があるとして使われてきました。
茎や根の乾燥したものは野木瓜(やもっか)という利尿薬となっていて、お茶として飲用もされていました。
中国では果実(種も)を駆虫薬として用いられているそうです。

葉は小さな葉が集まった掌状複葉という形をしていて、幼木時は3枚、成長するにつれて5枚から7枚になるということで、七五三の木、無病息災の木として尊ばれ、縁起の良い木ともいわれているようです。

そして、びっくり仰天したのが名前の由来とされる説です。

飛鳥時代、天智天皇(中大兄皇子)が蒲生野(現在の滋賀県近江八幡市)に狩猟で訪れた際に、8人の男子を持つ健康な老夫婦と出会われたそうです。
その老夫婦に「どうすればそのような長寿でいられるのか」と尋ねたところ「この地で採れる無病長寿の霊果を毎年秋に食べているからです」と老夫婦は答え、その霊果を差し出したのだそうです。
それをお食べになった天智天皇が「むべなるかな(いかにもそのとおりだなあ)」と仰せられたのだとか。
この「むべ」がその後に、郁子(むべ)の名前の由来になったのだそうです。

それ以来、朝廷に毎年献上されるようになったとされています。
これは1982年に一度途絶えましたが、近江八幡市にある大嶋奥津嶋神社が2002年に復活させ、以降毎年献上しているのだそうです。
‥‥ということは、今年も天皇皇后両陛下もお召し上がりになられたのではないでしょうか。
そんな由緒のある果実だったとは!! というわけで、びっくり仰天したわけですね〜。

郁子とアケビの違い

郁子とアケビの実
左/郁子の実 右/アケビの実

郁子は、アケビ科ということや「トキワアケビ」とも呼ばれているので、アケビの別名と思われている人もおられると思いますが、別の種類です。

一番分かりやすい違いは、アケビは実が熟すと果皮が裂けて縦にパカッと割れますが、郁子は割れずに閉じたままです。
そして、郁子は常緑性なので秋になっても葉は落ちませんが、アケビは落葉します。
「トキワアケビ」は漢字だと「常磐木通」と書き、常緑性からきた名前なんですね。
郁子は関東から南方に自生していますが、アケビは北海道を除く本州から南方に自生しています。
実はアケビより少し小さく7~9cmほど(小さいというのも食べにくい原因ですね)で、皮の白い部分がアケビより薄くて柔らかい。
そして花の形も違います。
可憐で可愛らしいので春の生け花によく使われているそうで、私が知らないだけで、どこかで見かけていたかもしれませんね。

郁子とアケビの花
左/郁子の花 右/アケビの花

郁子の栄養価

郁子は上記に書いたとおり、昔から民間療法に使われスタミナ果物といわれるほど、健康に良い栄養素がいろいろ含まれています。

郁子はアケビとは別種類ですが仲間ではあるので、含まれる栄養成分も似ているところがあります。
主に食用になる実に含まれる主な成分は、ビタミンC・食物繊維・カリウム・カルシウム・マグネシウム、そして、βシトロテロール・マミリンなどです。
βシトロテロールは植物ステロールで、ほうれん草やブロッコリーなどの緑の濃い野菜に含まれている成分。
免疫機能を高めたり、血中コレステロール値を下げる働きがあります。
マミリンには、食物の吸収を遅らせることにより血糖値の調整をする働きがあり、食べ過ぎを予防する効果が期待できます。

郁子の食べ方

郁子-カット

郁子の実の中の果肉と果汁が主に食用になる部分ですね。果肉には自然の優しい甘みがあり、酸味や香りもほとんどなくて美味しいですが、大きい種が沢山あり、果肉とくっ付いているため少し食べづらいです。
しかしスプーンや箸などでは果肉と種を離すことが難しいため、種ごと口に含み舌で種のみ選り分けて口の外に出す食べ方が、結局は一番手っ取り早い食べ方ということになります〜。
栄養面から考えると、生で食べるのは栄養摂取としては効率が良いのですけど。

郁子酒を作るというのもあります。
作り方はそれぞれで、皮を向いてから中身だけ漬けるのもありですが、果皮に箸で数カ所穴を開け種は取らずにそのままホワイトリカーなどで漬け込む方法でいいようです。郁子に甘さがありますので砂糖は好みで。
半年以上漬け込んでいると、果皮にある苦み・えぐみも熟れた味になり、ほのかに甘い郁子酒になります。

種を取り除く作業が苦でなければ、果肉でジャムやジュースも作れます。
容器の上に網ザルを置き、その中にくり剥いた中身を入れ、ヘラなどで上から押すようにして潰し、果肉(果汁)と種を分けます。…けっこう大変ですね(汗)。

まとめ

郁子は、一般のスーパーなどではまず見かけません。地味だし「あの種が多くて食べにくい果実ね」という印象だったのですが、調べてみると栄養豊富な縁起の良い果実なんですね~。

現代は、消費者の好みに合わせて品種改良され、果実類はどんどん糖度が高くなり、種無しの品種も出てきていますね。
それは、忙しい人でもすぐ食べられるように、小さいお子さんやご高齢の方でも食べやすいように、という工夫のひとつでもあるのでしょう。

ただ、現代の人々は忙し過ぎるところがあるようなので、ときには「郁子の実」などを食べたりして、ゆっくりと過ごす時間を持つようにするのも、体だけでなく心の休息として意味があるのかもしれません。

あたしも、小さいくせに

種は立派ね~ち、よく言われる

参考資料:
熊本大学薬学部薬用植物園 植物データベース ムベ
SPOLABO 不老長寿の果物「むべ」
BOTANICA ムベ(郁子)とは?
お役立ち!季節の耳より情報局 ムベ(郁子)とはどんな果物?
三常農園 皇室献上品・ムベ

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