500年もの歴史を持つ、寒干し大根から作られる山川漬・壺漬け

山川漬け-© P.K.N 製造物
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ポリポリとした食感で噛めば噛むほどうま味が出てくる「山川漬」そして「壺漬け」。

山川漬は鹿児島の山川発祥の名産品。
壺で熟成させて作る大根の漬物で、うま味だけでなくすぐれた健康機能性もあることが判明しています。
ご飯のお供に、お茶請けに、また焼酎のつまみにと、常備している鹿児島県人も多いとか。

大根の漬物なので、タクアンの一種と紹介されることもある山川漬・壺漬けですが、なんだか味が違うように、ルーツも違うようです。

山川漬の歴史

大根やぐら-開聞岳 
大根やぐらと開聞岳 © P.K.N

薩摩半島南部にある、山川(現在指宿市)は、鰹の水揚げ港として知られていますが、昔から琉球王国(沖縄)や南蛮人・中国などとの南蛮貿易の重要な中継港のひとつでした。
大根の栽培も盛んな土地で、これを保存する方法はないかと試行錯誤しているなか、時代ははっきりしませんが「杵でついてから壺に漬ける」という方法が貿易を通して伝わったようで、それに南国ならではの独特の工夫を凝らしながら生まれたのが山川漬といわれています。
これは長い船旅にも耐えられる保存食となり、船員達にも重宝されていたそうです。
昔は「唐漬け」と呼ばれていて、「1592(文禄元)年の豊臣秀吉による朝鮮出兵の際、薩摩半島南端の山川港から出港する島津義久の軍船に、付近の農家が漬けた『唐漬け』を食糧の一部として積み込んだ」という史実が残っており、この頃にはすでに作られていたということになります。

一方「タクアン」は、徳川三代将軍・家光の時代に、沢庵和尚が「中国に伝わる米の糠で漬ける」を書で学び、農民に伝授したのが始まりとされています。
なので、タクアンが考案される以前から山川漬は存在していたというわけで、ルーツが違うというか、タクアンの元祖といってもいいですね。

山川漬の製造工程

1 大根の栽培

白首大根-漬物用

栽培されるのは、練馬大根や干し大根といった白首大根系です。
白首大根は、首の部分が白くて細長い形をしています。水分や甘みが少なくて辛みが強く、病気になりやすくて鬆(す)が入りやすい、繊維が多くて固い大根です。

青果店やスーパーなどでよく見かける青首大根は、1974年に西日本などで栽培されていた宮重大根などをもとに開発された品種です。みずみずしくて甘みがあり、病気に強く、サラダでも煮込んでも美味しく食べられるということで、あっという間に人気になりました。
現在日本国内の市場に流通する大根の90%以上が青首大根です。
それで「甘みのある青首大根で漬物を作ると、ますます美味しくなるのでは?」と思われるかもしれませんが反対なのだそうです。
漬物は長時間かけて漬け込むことで発酵して美味しくなりますが、水分が多いので、発酵するより腐り始める方が早いのだとか。

・水分が少ないので、腐らずしっかり発酵させ長期保存ができるものになる
・繊維が多いので、ポリポリとした歯応えの良いものになる

白首大根の「大根」としての弱点といえそうな特徴が、じつは美味しい漬物を作るのには向いているんですね。

ですが、栽培する農家の方達は作業が大変です。
まず、病気に弱いので、肥培管理を徹底し成長をよく見守らなくてはいけません。
11月下旬頃から始まる収穫も大変です。青首大根は成長するにしたがい地表にせり上がるので、土から抜くのも比較的楽ですが、白首大根は白い部分が全部土に埋まっているため、地中から抜くのも青首大根の3倍ほどの力が必要なのだそうです。
最近は良い機械もありますが、一本一本手で抜いているところもあります。

2 寒干し大根を作る

薩摩半島南部地域は、比較的温暖で雪が降ったり霜が降りることは滅多にありませんが、冬になると強い北風が吹き込みます。それが質の良い寒干し大根を作るうえでは利点になります。
収穫された大根の2本の葉部分をくくり、竹を三角に組んで作ったやぐらにかけて干します。
この光景が、11~12月のこの地域で見られる、冬の風物詩「大根やぐら」です。

大根の葉を残したまま干すのは、収穫後3~4日光合成が行われるなかで素早く天干しして乾燥させると、採れたての鮮度そのままの寒干し大根ができるからなのだそうです。
南国の天日と強く冷たい乾いた風のなか3週間ほど干し、全体が1/4の重量になるぐらいまで十分に乾かします。
寒干しした大根は茶色く色づき、栄養も増しています。

大根やぐら-作業中
寒干し大根作り(作業中)

3 干した大根を杵で突く(小突き)

干した大根に塩を塗り(海水をかけ)ながら杵で突き、大根の肉質を均一に、そして繊維を柔らかくし身をキュッと締めます。
今ではほとんど機械化されていますが、昔は一本一本手作業で杵で突いていたので、これもかなり大変だったそうです。

4 底にスノコを敷いたカメ壺に入れる

身がキュッと締まった大根を、スノコを敷いて底上げしたカメ壺の中にギッシリと敷き詰めます。
同時に塩をたっぷりと振りかけることで、大根に残っていた水分が壺の底に溜まるので、それをツボの中央に通した管ポンプで定期的に抜き取り、カラカラッの状態にしていきます。

5 発酵熟成させる

壺を密閉し漬けてから2~3ヶ月くらいすると香りがし始め、6ヶ月以上発酵熟成させるとアミノ酸のうま味成分が凝縮され、色も濃いベッコウ色になり、ほんのりと甘い独特の風味を持つ「山川漬」が出来あがります。
もっと熟成させる時は、さらに1年寝かせるそうです。

山川漬の原材料は干し大根と塩のみ
ですが、そんなにしょっぱくはありません。「塩漬けの大根」ではなく、カビも生えないほどに塩で大根の水分を徹底的に抜き、乳酸発酵させた「保存食の漬物」なんですね。

山川漬と壺漬けの違い

山川漬と壺漬け
左/山川漬 右/壺漬け

昔は壺から出した一本まるごとを「山川漬」、それを刻んで三杯酢に漬けたものを「壺漬け」として売っていました。
その後、昭和40(1965〜)年代に首都圏・関西圏に向けて出荷されるようになると大量に売れるようになり、生産が追いつかなくなったので、タンクで漬けた大根を刻んで、鹿児島の甘い醤油や調味料で味付けしたものが「壺漬け」として販売されるようになりました。
ここで「山川漬」と「壺漬け」は枝分かれしたんですね。
カメ壺で伝統製法に則り徹底的に発酵させたものが山川漬、発酵軽めであっさりとした味付けのものが壺漬けになりました。

今では、発酵熟成度が高く濃いベッコウ色で、独特な味・臭いのある山川漬は、鹿児島県などでは根強い人気があるものの、壺漬けの方が発酵度が低いこともあり、あっさりとして食べやすいことから全国的に人気を博し、九州の代表的な漬物になっています。

山川漬の効能

一般的に漬物は、体にやさしい発酵食品です。
水分を抜いて作られる漬物は、生の野菜よりも体積が小さくなる分、含まれる食物繊維やビタミン・ミネラルなどの栄養成分を効率良く摂取できます。
また噛みごたえがあるので、咀嚼回数が多くなります。
咀嚼が多いと、顎の発達・唾液分泌による虫歯予防・消化を助ける・脳の活性化・認知症予防など、様々な効果が期待できます。

とくに長期乳酸発酵の「山川漬」は、原料が干し大根と塩だけなのに、逆に塩分は少なく、甘み・酸味・うま味成分は一般的な漬物より高い濃度になっています。
近年、その山川漬には普通の大根の約6倍、干し大根の約3倍のGABAが含まれていることが研究により判明しました。
GABAはアミノ酸の一種で、人の体内で神経伝達物質として働き、ストレスを和らげ脳の興奮を鎮める作用があるとされている成分です。
体をリラックスさせる働きがあり、安眠や血圧低下などの生活習慣病予防にも役立つと期待されています。

山川漬は「鹿児島県ふるさと認証食品」

山川漬け-壺漬け-集合

冷蔵庫や真空パックなど他の保存方法がある現代、消費者の嗜好の変化にも押され、山川漬は「作るのに手間や時間がかかる割には売れない」ということで、コストの問題もあり出荷量がどんどん減ってきていました。
しかし上記のような健康効果があることが判明し、一度はあきらめた昔ながらの壺での製法を復活させたメーカーもあるそうです。

一本そのままの製品ももちろんありますが、山川漬も壺漬けと同様に、刻んで鰹出汁や黒酢につけたもの、生姜や胡麻、ゆずなどの柑橘類を加えたものなど、食べやすくて美味しいだけでなく、健康効果がもっと高まるような工夫をされた製品もどんどん開発されています。

壺漬けも美味しいですが、伝統を守り作り続けられている山川漬は、1991(平成3)年に「鹿児島県ふるさと認証食品」に認証されています。

「あの戦国時代に活躍した島津軍も同じものを食べていたんだなあ」と想いを馳せながら、ご飯のお供に、お酒のつまみに、食べてみるのも一興ではないでしょうか。

このポリポリが良かなあ
しょちゅ(焼酎)がとまらんど!

お茶請けにもぴったりだよ~

参考資料:
鹿児島漬物商工工業共同組合 漬物を知ろう
ふるさと認証食品(山川漬)
指宿まるごと博物館 山川漬
内薗賢漬物店
中園久太郎商店
水溜食品 寒干し大根

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