鹿児島の養殖カンパチ。日本では漁獲量がかなり少ない高級魚

カンパチ-つけ丼 水産物

カンパチは、ブリ・ヒラマサと同じスズキ目アジ科ブリ属に分類されており、3つ合わせて「ブリ御三家」とも呼ばれています。
成魚は全長1m程にもなる大型肉食の回遊魚であることは似ていますが、ブリとは少し違う特徴を持っています。

カンパチの特徴

カンパチ-全体

まず、見た目が違います。
ブリよりも黄色や赤みが強い体色で体高が高く、前面から見ると黄色い二つの線があります。それが八の字に見えることから「間八」や「勘八」と呼ばれるようになったそうです。
ブリが海水温20℃ぐらいを好むのに対し、カンパチはそれより少し高い20℃~30℃を好みます。ですので、ブリは北海道より北のカムチャッカ半島あたりまで回遊しますが、カンパチは東北地方以南を回遊します。
そういうこともあり天然カンパチの漁獲量は日本ではかなり少なく、高級魚として扱われています。

鹿児島県はブリの養殖だけでなく、カンパチの養殖にも力を入れていて、生産量もブリと同じく日本一を誇っています。
それも全国の6割ほどとダントツで鹿児島県産が占めているので、飲食店で食べたり、鮮魚店やスーパーなどで購入したカンパチは、鹿児島産の確率がかなり高いですね。

錦江湾(鹿児島湾)に多い、カンパチの海面養殖場

カンパチ-養殖場
垂水の養殖場 © K.P.V.B

錦江湾は、年間を通して暖かく酸素をたくさん含んだ黒潮が流れ込み、プランクトンが豊富。また、深海湾で潮流が早いため、身の引き締まった魚が育つという養殖に適した湾です。
湾での養殖は、明治時代に鰹餌料用の竹籠生けすが始まりだとされていて、その他に海苔やマダイ・マアジ・ブリ(ハマチ)などが養殖されていました。それからシフトする感じで、1980年代からカンパチの養殖が始まり、一気に盛んになりました。
ブリからカンパチにシフトした養殖場もありますが、これはブリよりカンパチの養殖が簡単だからではありません。むしろ、難しい面もあります。

シフトのきっかけになったのは、1989年襲来した台風11号。
ほとんどの生けすが壊滅的な被害を受けてしまいます。もう一度、生けすを作り直さなくてはいけなくなった時「カンパチはどうか?」という声が上がります。
上記したように、カンパチがブリより少し高い海水温を好むことや、もともと需要は多いのに日本での天然の漁獲量が少なく魚価が高かったということが理由のようですね。
ざっくり線を引くと、桜島より北にブリ、南にカンパチの養殖場が多い印象です。

垂水市漁業協同組合の「海の桜勘」、ねじめ漁業協同組合の「ねじめ黄金カンパチ」、鹿屋市漁業協同組合の「かのやカンパチ」、山川町漁業協同組合の「いぶすき菜の花カンパチ」、高山漁業協同組合の「辺塚だいだいカンパチ」は、「かごしまのさかな」に認定されています。
※「かごしまのさかな」とは、鹿児島県で生産された養殖ブリ・カンパチについて、品質等が優れ市場や消費者等のニーズに応えられる等、県内生産者のモデルとなるような優れたものを、漁協等からの申請に基づき、「かごしまのさかなづくり推進協議会」が審査・認定するものです。

カンパチの生産体制

それでは、カンパチ海面養殖で苦労していることや工夫していることなどを紹介していきましょう。

カンパチ稚魚(モジャコ)の捕獲

カンパチの稚魚は、流れ藻についてくるブリの稚魚に紛れ込んでいます。ブリ稚魚の採捕も難しいですが、カンパチ稚魚はもっと漁獲量が少ないそうです。
なので、まだほとんどが海外(中国)の天然種苗に頼らざるおえないのが実情ですが、供給量や価格が不安定であり、外来の疾病や寄生虫が持ち込まれたりしていて、その対応が大変です。

それで養殖に適した安定的で安心・安全な鹿児島県産人口種苗の技術開発が急がれており、少しずつですが導入され始めています。
人工種苗とは養殖された親から人間の管理下で生産される稚魚のことで、海洋資源である天然種苗を乱獲したりして減少させたりすることがないので、海の資源保護になります。またその中から選抜して育成できるため、品質向上や生産効率アップにもつながります。

カンパチ養殖に対応した生けす設備

カンパチはブリと比較しても、環境悪化の影響を受けやすく皮膚寄生虫などが付きやすい魚です。それでその駆除に相当気を使っています。
小割(網生けす)養殖が一般的で、それの交換を頻繁に行い、消毒作業など日々衛生管理に努めています。
もちろん、体長と生けす内の収容尾数はデータで管理されていて、成長により生けすの大きさを決めています。

また、赤潮の発生や台風到来への対策も必要です。
錦江湾は深海湾のため、台風が通る時は生けすを海面からおよそ10mの深さまで沈ませる対策をします。
波の影響を受けるのは海面から3~4m程なので、ここまで沈ませると、高波で揺れたり生けすが壊れる被害を出来るだけ少なくすることができるそうです。

餌へのこだわり

効率よく品質の良い魚を育成するためにも、与える餌の種類や分量・時期などを考え、カンパチの健康状態をチェックできることからも、投餌は、養殖業者にとって最も気を遣う仕事です。
各養殖業者により独自の餌もありますが、主な餌はモイスペレット(MP)とエクストルードペレット(EP)。

MPは生餌(イワシ・アジ・サバなど)と配合飼料を混ぜ合わせて固形化したものです。混ぜ合わせる生餌やサプリメントによって色々なタイプがありカンパチに適した餌です。ただし、海水を濁らせたり生餌の種類によっては品質にバラつきが出ることもあります。

EPは、専用の機器(エクストルーダー)で高温高圧加工することにより、これまで消化吸収されにくかったタンパク質や脂質などの栄養成分も 魚体に取り入れやすくなっている餌です。EPは水中で形が崩れにくく、海水を汚しにくいので海洋環境への負荷を低減することができます。
まだ値段が高価なため使用量は多くありませんが、カンパチの品質も安定しますし、これからどんどん増えていくでしょう。
カンパチはブリと比べると脂質が低く、それが美味しいという人もいれば、物足りなさを感じる人もいるでしょう。
では脂質が多い餌を与えたらいいかというと、脂質が高すぎると酸化や変色を起こしたり、コリコリの歯ごたえが無くなったり、臭いを感じる場合がありますので、加減が難しいです。
それを適切な量にすることができるのもEPのメリットです。

餌はいろいろ研究がされており、茶葉と焼酎を配合した飼料なども開発されています。
茶葉にはカテキンが含まれ、それが血合いの変色を防ぎキレイな赤色を保ってくれたり、含まれるビタミンEの増加で、コレステロール含有量の減少が見られるそうです。

カンパチ-カマ塩焼き

一年中出荷できる体制作り

鹿児島県では、2009年にカンパチ養殖用の稚魚を安定的に大量生産することを目的として、種苗生産施設を垂水市に整備し、研究を進めています。
と同時に、産卵時期を調節するために、人工的に日の出や日の入りを再現できるLED調光装置や、温泉熱を使った水の加温施設などを採用しました。
これにより、天然のカンパチの旬は夏ですが、それ以外の季節でも高品質の安心・安全な生産が一年中できるようになり、コスト軽減にも役立っています。

海の環境を守るための取り組み

養殖業は、綺麗な海がなければ成立しない産業です。
上記したような海水を汚しにくい餌の開発や、海水を浄化する機能を持つ昆布の養殖施設を併設する取り組みを行なっているところもあります。
また、多くの水産生物の幼稚仔の育成場となるように「海のゆりかご」と呼ばれるアマモ場の造成に力を入れている漁協もあるそうです。

地道な努力の積み重ねで出荷されていく、鹿児島の養殖カンパチ

カンパチ-刺し身

鹿児島カンパチは、成長段階にあわせてこだわりの餌が与えられ、トレーサビリティにより生けすごとに養殖履歴を明確にした一貫体制で育てられています。
品質の高い養殖カンパチは、本来のハリが強くコリコリした食感を残しつつ、甘みや脂の旨みを感じますが、臭いはありません。

現在は冷凍技術もかなり高いですが、カンパチは切り身の変色開始がブリと比べても遅く、茶葉配合の飼料効果もあり、切り身のパックでの販売でも良い状態を維持しやすい、という嬉しい特徴もあります。

海外への輸出に向けて

鹿児島県のカンパチの養殖生産量は日本一ですが、日本の人口はこれから減少していくと思われますが、世界の人口はますます増えると予想されています。
国内市場は飽和状態にあり、カンパチもブリと同様、海外市場の開拓が急務になっています。
現在の主な輸出先はアメリカですが、今はアジア方面市場での参入を目指し、PR活動などに力を入れているそうです。
世界市場へ輸出するためには、HACCP対応の加工場整備、ASC認証の取得や餌の完全EP化など、努力しなくてはといけない問題が山積みです。

美味しい魚を生産するのはもちろんですが、それを売ることもとても大事で、加えてSDGsも考慮に入れなくてはならず、養殖業者やその関係者・組合の方達の奮闘は、まだまだ続いていきます。

カンパチどんとは、

近所付き合いじゃ

ですです!

参考資料:
どんどん鹿児島 かごしまの食一覧 養殖カンパチ
錦江湾探検隊 養殖リポート
鹿児島県 これまでに認定された「かごしまのさかな」
東洋経済オンライン 魚が獲れない時代に「鹿児島・垂水」から学べる事
柿内水産の歴史 カンパチ
特薦大隅 カンパチ養殖

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