一度は全滅しかけた、かごしま黒豚(六白黒豚)

黒豚-©鹿児島市 名産品
©鹿児島市

かごしま黒豚(六白黒豚)は黒豚種で、手・足・鼻などの6ヶ所が白いことから名付けられた鹿児島のブランド豚。
柔らかくて歯切れがよいうえ、臭みが少なく、脂が甘いのにさっぱりしているのが特徴です。
一般の豚より成長期間が長くコストがかかるのに、鹿児島がこれにこだわる理由などを紹介します。

かごしま黒豚の歴史

薩摩では戦国時代から豚肉を「歩く野菜」と呼んで食べていました。
戦国時代に九州統一をほぼ成し遂げた島津氏が強かった理由の一つとして、戦場にも豚を生きたまま兵糧として運んでいたことがあげられ、その当時としては、薩摩戦士は珍しい肉食集団だったのだそうです。

「かごしま黒豚」のルーツは、400年ほど前に琉球(沖縄)から奄美大島、そして鹿児島本土に連れ帰った豚を改良したもので、薩摩藩内でも食されていたそうです。
江戸の薩摩藩屋敷でも飼育されていて、水戸藩主・斎昭公や最後の将軍である徳川慶喜公にも献上され、とく徳川慶喜公は「豚一様」と呼ばれるほど、薩摩の黒豚を気に入っていたそうです。
西郷どんも大好物で、郷土料理の「とんこつ」や肉入り野菜炒めなどをよく食べていたと伝わっています。

黒豚-とんこつ

明治時代から戦後

明治時代に在来の黒豚にイギリスから導入したバークシャー種を交配させ、より美味しい豚へと改良がされました。
鹿児島に養豚産業を根付かせた功労者が、枕崎市鹿籠出身の獣医師・園田平助です。
枕崎は土地が痩せているうえに台風がよく来る土地ですが、台風に強いサツマイモ栽培と漁場が近いことから魚のアラが手に入りやすかったので、それを飼料とする養豚業を考えつきます。
そのとき、在来豚ではなく、導入されたばかりのバークシャー種での養豚業を住民に薦めました。

そして戦後、同じ鹿籠出身の森重夫が、1949年今は無き南薩鉄道の鹿籠駅から、県内としては初めて黒豚の東京への出荷を行いました。
東京に出荷された黒豚は、美味しさと品質の良さから評判を呼び、「鹿籠豚」という日本初のブランド豚になります。
1960年代には東京での黒豚ブームはピークに達し、供給が追いつかないほどの人気となり「高品質な豚肉」として、鹿児島の黒豚は全国にも広く知れわたるようになりました。

黒豚の不遇時代

しかし時代には波があり、高度経済成長の影響で、鹿児島県内にも経済効率がよく量産できる白豚が導入され、高品質だけれども生産効率の低い黒豚の生産は、どんどん減少していきました。
それで一時期は絶滅寸前まで落ちこんでいましたが、「絶対に量より質の時代が来る」と信じて細々と飼育を続けていた生産者や関係者の努力があり、「やっぱり黒豚の味が忘れられない。黒豚を絶やしてはいけない」という鹿児島県民の声なども上がり始め、1974年、県でも黒豚の振興を決定し、飼育農家や頭数も少しずつ回復していきます。

そうこうしていると、時代はバブルになりグルメブームがやってきます。
黒豚も再び脚光を浴びますが、生産頭数が減っていたので、全国で黒豚に白豚をかけ合わせたような「ニセ黒豚」が売られるようになり騒動になりました。
その産地偽装対策として、1990年に生産者を中心とした「鹿児島県黒豚生産者協議会」を設立します。1999年に鹿児島の黒豚は「かごしま黒豚」として商標登録されることになりました。

現在でも、鹿児島黒豚生産者協議会が指定したかごしま黒豚販売指定店に「桜島に似た屋久杉で作られた看板」が交付され、出荷の際には、生産者名・出荷年月日・証明者番号を記入した「かごしま黒豚証明書」が添付されています。

かごしま黒豚の条件

鹿児島県黒豚生産者協議会では、生産するために必要な基準を設けているそうです。

1. 鹿児島県黒豚生産者協議会会員が鹿児島県内で育てた黒豚であること

2. 日本種豚登録協会の品質基準に基づくバークシャー種であり、他の品種と混飼しないこと

バークシャー種は体毛は黒色ですが、足4本・鼻・尻尾の6カ所に白班あることから「六白黒豚」とも呼ばれています。

バークシャー種には経済効率的にデメリットもあります。
他のヨークシャー種などの白豚が一回に12頭前後生まれるのに対し、黒豚は8頭前後。しかも豚の種類の中では中型で大きくありません。
白豚は生後6ヶ月で出荷されますが黒豚は発育が遅く8~9ヶ月と、手間と時間がかかりコスト高になります。
しかし、それでもバークシャー種にこだわるのは、DNAとして脂質の割合が低く、筋肉の繊維が細かく歯切れが良いという特徴を持っているから。
それをじっくり大切に、一般の豚より3ヶ月ほど長く育てることで、水分量が少なく引き締まった、うま味をたっぷり含んだ肉質になります。

3. 肥育後期にサツマイモ(からいも)を与える

肥育後期にサツマイモを10~20%添加した飼料を60日以上与えることも条件の一つです。
サツマイモを与えることで、脂肪の融点が高くなるため、脂がべとつかずさっぱりとした食感になり、また、赤肉脂肪の中に抗酸化作用のあるビタミンEの含有量が増加することも、研究により判明しているそうです。
サツマイモを添加した飼料には給与基準があり、生産者協議会の会員は、その基準を厳守して生産しているのだそうです。

生産者の飼育の方法

黒豚ー放牧
© K.P.V.B

放牧地は土だけのところや牧草があるところ、栗の木を植えているなど様々ですが、共通項として人工的に水溜りを設置してます。
理由は豚は無汗腺動物で身体を冷やすためと、綺麗好きな性質のため身体に付いた害虫を洗い流すために水溜りに寝転がる習性があるから。

放牧させるのは、黒豚は難産傾向があるのでその緩和のためと、黒豚の肥育期間は若干長いので、空腹になるよう運動させ、よく食べさせ成長を早め、少しでも早く出荷させることと、足腰の強化のためだそうです。

放牧場は基本的に豚舎と隣接しており、朝から夕方まで放牧場で過ごし、夜になると豚は豚舎に戻って眠ります。そのため、豚舎には豚が自由に出入りできるよう出入口が設置されているところも多く、手間がかかります。
飼料も、上記のサツマイモを添加した飼料の他に、独自に大麦・パンくず・焼酎粕・クリ・海藻などを与えている農家さんもいます。

かごしま黒豚(六白黒豚)の食味や食感

このような生産体制なので、かごしま黒豚は一般の豚と比べると割高になってしまいますが、その価格に見合うだけの「旨さと食感」を持っています。まとめますと下記のようになります。

  1. 肉の筋繊維が細く、食べた時に歯切れよく軟らかい。
  2. 保水性が高く肉質がしまり、脂肪組織の水分含有量が少ない。
  3. 中性糖やアミノ酸含有量などの旨味成分の含有量が多く、甘味も感じられる。
  4. 脂肪の溶解温度が高いので、脂がべとつかず、さっぱりしている。
  5. 豚肉特有の「臭み」がない。

最近の研究で、「かごしま黒豚」の美味しさは、科学的にもデータで証明されています。
鹿児島大学と県畜産試験場などが行った研究の結果で、かごしま黒豚は、国内産白豚や輸入豚に比べうま味や甘みを感じさせるアミノ酸の量が圧倒的に多いことが明らかに!
また、かごしま黒豚は保水性が高く、ビタミンB1を多く含むことも明らかになったそうです。
さらに、20代から50代の男女数十人に対して行った食味試験で、肉質の美味しさで重視される「軟らかさ」でも「かごしま黒豚」の優位性が示されたのだそうです。

黒豚-豚カツ

かごしま黒豚は、まだまだ進化中!

鹿児島県の黒豚の研究・改良は、世界でも類をみないスケールと内容を誇っています。
1982年バークシャー種系統豚「サツマ」、1991年「ニューサツマ」、2001年「サツマ2001」、そして2015年「クロサツマ2015」が完成。
さらに県畜産試験場では、2030年までの完成を目指し、新たな第5系統豚の造形に着手しています。
このように生産者の飼育努力だけではなく、さらに美味しい「かごしま黒豚」になるよう、民間の指定種豚場や畜産試験場で、今もずっと研究が続いているそうです。

かごしま黒豚は、お近くの精肉店やスーパーで取り扱っていなくても、ふるさと納税の返礼品になっている他、通販でも手軽に購入できます。
過去には絶滅しかけたこともある「かごしま黒豚」。
今では国内だけではなく、世界でも輸出が拡大中の人気のかごしま黒豚を、ぜひ一度ご賞味ください。

一般的な豚肉の特徴や栄養と効能は、下記にまとめてあります。

西郷どんも好物だったんだって

ほいでー!
元気に活躍しやったんだね~

参考資料:
鹿児島県黒豚生産者協議会
鹿児島県 かごしま黒豚
かごしま黒豚 Wikipedia
霧島高原ロイヤルポーク
黒豚屋佐藤

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