成長にともない名前が変わる縁起の良い魚、鹿児島の養殖ブリ

ブリの刺身 水産物

ブリはスズキ目アジ科に分類される大型肉食の回遊魚。主な生息域は日本海と北海道から九州の太平洋岸で、春から夏に沿岸域に寄って北上し、始冬から春に沖合いを南下します。
成長にともない名前が変わる出世魚で、日本中で縁起の良い魚として親しまれています。

鹿児島でも昔からよく漁獲される魚で、旬は12月~2月。「ぶり大根」という郷土料理もありますね。
鹿児島県は天然ブリの漁獲だけでなく、養殖にも力を入れています。

養殖ブリの生産量、日本一

ブリ-頭部分

「湾や入江が多く温暖な気候で水温が安定している」「エサとなるカタクチイワシが多い」「ブリの稚魚(モジャコ)もよく獲れる」などの自然条件に恵まれているため、1958年に養殖が始まったそうです。
それから、生けすや餌の改良など長年の研究によって養殖技術も高度になっていき、全国の25%を超える生産量を誇り、2005年あたりから日本一のシェアを続けています。

主に盛んなのは、長島町・霧島市・垂水市。
とくに、長島町・東町漁業協同組合の「海峡育ち鰤王」、福山養殖の「さつま黒酢ぶり」、牛根漁業協同組合の「ぶり大将」は「かごしまのさかな」に認定されています。
※「かごしまのさかな」とは、鹿児島県で生産された養殖ブリ・カンパチについて、品質等が優れ市場や消費者等のニーズに応えられる等、県内生産者のモデルとなるような優れたものを、漁協等からの申請に基づき、「かごしまのさかなづくり推進協議会」が審査・認定するものです。

他にも、マルハニチロAQUA 桜島事務所がモジャコの導入から加工まで一貫生産している「ブリ吉」や、長島町の有限会社勇進水産、「茶ぶり」を育てている株式会社ネバーランド、またこれは宮崎県ですが、黒瀬水産会社(ニッスイグループ)が志布志湾で養殖している「黒瀬ぶり」などがあります。

ブリ養殖への工夫

ブリの養殖-長島町
鹿児島県 長島町 養殖場

ブリはそもそも回遊魚なので、それを養殖するにはいろいろな技術開発が必要なうえ、海面養殖(海の中に生けすがある)のため、台風や季節風・津波、そして赤潮も発生します。それをどういう工夫で乗り越えてきたのか…。

ここでは、単一漁協としては養殖ブリ生産量日本一の「長島町の東町漁業協同組合(以下、JF東町)」とその「組合員」の取り組みを中心に紹介いたします。
JF東町の組合員(漁業者)は家族経営が多く、毎日自分の生けすに向かい愛情をもって魚の成長を見守っていますが、全体の生けすの技術やエサの開発、加工して出荷までを一貫して管理しているのがJF東町です。
「それぞれの養殖業者がバラバラで育て売るよりも、みんなで一緒にやった方がもっと利益を上げられる」という思いから、JF東町と組合員(漁業者)が一致団結してぶりの養殖に取り組んでいます。

新鮮・安心、そして美味しいブリを育てるために

稚魚(モジャコ)へのこだわり

ブリの養殖は、まだ卵からの完全養殖が難しいので、稚魚(モジャコ)を捕獲してそれを育てることから始まります。
流れ藻についてくるのを捕獲するのですが、資源保護の観点から操業できる期間が23日と大変短く、短期決戦の漁です。
夜明け前に出港し、長島町周辺で多く獲れればいいのですが、時には遠く屋久島や種子島あたりまで船を走らせないとモジャコを捕獲できないこともあるそうです。

漁から戻ると、獲れた数十万匹のモジャコを1匹づつ選別する作業に入ります。気が遠くなりそうな作業ですが、選別するのは、アジなどの別の魚が混ざっているのでその尖った背びれがモジャコを傷つけたり、寄生虫がついたりしてしまうのを避けるため。
モジャコがよく獲れる種子島には、1匹わずか1~10gしかないモジャコを2~3ヶ月、50g前後になるまで飼育する生けすもあります。
また2012年からは人口種苗の導入も進み、その割合も年々増加しているそうです。

エサへのこだわり

養殖が始まった頃はカタクチイワシや鯖などの生エサでしたが、どうしても脂濃くなってしまい、さらに生エサなので時期により大きさがまちまちで栄養・脂のりにムラがありました。また食べ残されたエサが海を汚します。
そこで研究を続け、2005年に配合したエサを小さく練り固めた粒状の「鰤王EP(エクストールデットペレット)」と、生エサと魚粉などを混合した「鰤王マッシュ(モイストペレット)」というオリジナル飼料を開発しました。
このオリジナル飼料は、原料を一度乾燥させたり冷凍させたりして作るので、アニサキスなどの寄生虫リスクもほとんどなく、ブリの栄養価を安定させ統一性のある高い肉質と鮮度を保つ役割を果たしています。
これはJF東町が独自に定めた基準の高い「ブリ養殖管理基準書」で厳しく管理されていて、飼料安全証明書を取得し、安全性の検証も可能になっているそうです。

ちなみにJF東町以外の養殖場でも「さつま黒酢ぶり」には抗酸化力が強い黒酢もろみを、「茶ぶり」には緑茶や高麗人参などを、「黒瀬ぶり」には出荷3ヶ月前からカプサイシン成分のある唐辛子を混ぜたりと、独自開発したエサを与えているそうです。
どの養殖場も、ブリの大きさや季節などに応じ、最適なエサの種類や量を研究し与えています。

ブリの成長を見守るトレーサビリティシステム

「ブリ養殖管理基準書」にそって、漁業者が自らの飼育情報を養殖日誌に記録し、それは東町漁協の品質管理室でデータ化されます。そのデータによりブリの成長状態や水温などに合わせて、エサの種類や量などを管理しています。
養殖生けすは海の中にあるため、赤潮や台風・季節風の影響を受けますが、エアー制御により養殖生けすを沈下・浮上させるシステムも導入されていて、できるだけダメージを軽減させるようにしています。

また、最新技術の魚体測定カメラで魚の体重を計り出荷のタイミングを決めています。
以前はブリを網ですくい1匹ずつ麻酔をかけてから測っていて、そのストレスで傷ついたり病気になるブリもいて、漁業者の負担も大きいものでした。しかし魚体測定カメラは生けすの中で魚が泳いでいる状態をカメラに撮り、その映像を分析して魚の体重を出せるという優れもの。
このカメラのおかげでブリにストレスを与えず、漁業者も働きやすくなったそうです。

水揚げ後の徹底した温度管理

水揚げする前に3日間エサ止めをします。胃の中にエサが残っていると劣化が早いからです。
そして水揚げ後は、なんといっても鮮度を保つことが大事です。
漁業者は生けすからブリを取り上げると、船上ですぐに締めて冷やした状態で水揚げ場まで持っていきます。
そのブリの体重を測ると、これまたすぐ「スラリーアイス」の入ったタンクで冷やしこみます。
※「スラリーアイス」とは塩水とシャーベット状の氷を合わせたような特殊な氷で、これが魚にまとわりついて中心部まで急激に温度を下げてくれるアイスだそうです。

冷やされたブリは、水揚げ場のすぐ裏にある加工場へ速やかに運ばれて行きます。
生魚(ラウンド)はそのまま氷詰されて出荷されますが、加工場では用途に合わせ、内臓や頭を除去したり、三枚におろすなどの作業を行います。

ラウンド…上記の通り、一本丸ごとの状態
フィレ…内臓や頭を取り、三枚におろした状態
ドレス…内臓と頭を除去したもので北米輸出向けの主力商品
ロイン…フィレをさらに背身と腹身に分けた状態

に加工し、真空パックされて保冷して出荷されます。
加工場の生産能力は、1時間あたり約1000本、1日あたり最高2万本の生産が可能だそうです。

ブリ-照り焼き

海外への輸出の拡大

JF東町では、早い段階から輸出にも力を入れています。

1998年、養殖ブリの加工において全国で初めてHACCP(食品製造の国際的な衛生基準)の認証を取得。
これにより、冷凍だけでなく生(冷蔵)でも輸出できるようになりました。
2003年には対EU輸出水産食品取扱い施設の認定を受け取引を開始。さらに、中国や韓国、ロシアに向けても同様の認定を受けてます。

現在年間出荷量1万2000トンのうち、10%をアメリカ・カナダなど世界20か国に輸出していますが、海外への販路はますます拡大していて、だいたい好評のようです。

ただし、これからについて課題もあります。
ブリは日本近海を回遊している魚で、漁獲量・養殖量ともに日本がほとんど独占しているわけですが、ブリの仲間であるヒラマサの養殖量がオーストラリアやオランダ・ノルウェーなどで増えてきています。
それとの販路競争が激化していくことはすでに見えていることなので、これからの拡大戦略をどう取っていくかが重要課題になっているのだそうです。

365日、一年中出荷ができることが強み

天然ぶりも美味しいですが、時期や個体によって味に違いがありますね。
養殖ブリは稚魚から成長させて水揚げ、そして加工まで、毎日様子を見守りながら大切に育てられています。誰がどういう風に飼育したのかもデータで確認することもでき、均一な美味しさだけでなく、そこに安心・安全があります。
臭みなどなく、脂が程よくのりつつもさっぱりとした食感。しかもアニサキスなどの寄生虫の心配もありません。

スーパーなどで「鹿児島産のブリ」が売っていたら、この養殖ブリかもしれません。通販でも購入可能です。
見かけたら「鹿児島県の養殖ブリ」をぜひ食べてみてください。品質の良さに驚くと思います。

ブリの特徴や栄養と効能は、下記にまとめてあります。

ブリどんとは、

鍋ん中でよく会う仲間じゃっど

‥‥‥‥

参考資料:
東町漁業協同組合
農林水産省 日本のおいしいをもっと世界へ
Marine BankMagazine
鹿児島県 これまでに認定された「かごしまのさかな」
食品データ館【都道府県】ブリ(養殖)の産地・生産量ランキング

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